2021年 11月 の投稿一覧

金融所得課税強化(配当二重課税)について

岸田さんが、やっぱり金融所得課税を強化したいとおっしゃっています。
いわゆる「1億円の壁」という、所得が1億円を超えると実質税率が下がっていくという現象への批判への対応です。所得が大きい人の年収の多くは配当や利子等の金融所得によって構成されているのですが、金融所得への税率が大体20%のため、実質税率が下がってしまう、という現象です。税率20%というのは大体年収1,200万円くらいの人の税率ですね(所得税・住民税含む実質の累進課税額から逆算)。

いや、そりゃおかしいやろ、大層金持ちのくせに….不公平やないか。という気持ちはよくわかります。
ただまあ、この問題は非常に複雑で、パッと考えただけで、株式市場への影響、海外税制との整合性、他の所得への課税との整合性、配当の二重課税問題等、大量の論点が思い浮かびます。

そういうわけで私は金融所得税の強化には反対したいと思っているのですが、とりあえず配当の二重課税問題について書いてみようかと。
この「二重課税」の仕組み、意外と頭がいい人もなかなか適切に理解するのは難しいようで。いや、私だって実際に自分自身が二重課税されそうな現実に直面するまであまり真面目に考えなかったですから。

とりあえず、売上=利益=1億円の会社があったときに配当課税を50%(通常の累進課税と同じ)にまで強化した場合を表にしてみました。

利益1億円会社の課税

科目   現状(配当課税20%) 配当課税50% コメント
売上   100,000,000 100,000,000 売上=利益=1億
税引前利益(課税所得) 100,000,000 100,000,000 費用なし
法人税   35,000,000 35,000,000 法人税35%
税引後利益 65,000,000 65,000,000 全額配当します
         
税金 法人税 35,000,000 35,000,000  
  配当への課税 13,000,000 32,500,000 上記配当額に課税 
  税金合計 48,000,000 67,500,000 上記の合計
税率   48.0% 67.5% 税金/利益

※累進課税の最高税率は50%を超えますが、単純化して50%としています。同様に法人税も単純に35%とします。

げえええ!配当に普通に50%課税すると税率67.5%になってしまう!
法人で課税された後に更に個人所得税で配当額に課税されるからです。
配当ってのは、すでに法人で課税されているものなんです。
現状の制度はこれをなるべく避けるようにして、配当課税を20%にしているので、結果は累進課税の最高税率50%とほぼ同じで48%です。
いや1億円も儲かってるんだからこんくらい課税してもええのや、という意見もあろうかと思います。しかし、全額役員報酬で払った場合や、法人にせず個人事業の場合は50%しか課税されないので、整合していません。そしてやはり67.5%は高すぎるのでは?

つまり、株式配当に関しては、シンプルに累進課税にするわけにいかないと思うわけです。
では、株式は累進課税から除きましょう、という意見もあろうかと思いますが、では、投資信託は?REITはどう考える?デリバティブだって株式オプションもあるぞ。そして、貸付利子と株式配当の本質的な違いとは?
といった複雑な話に入っていってしまいます。

更にいうと、事業を行って配当をもらうことと、単純に金融資産から利得をもらうことを分けることができるのか?という話に行き着いていきます。

エマニュエル・トッドの家族論

家族類型が政治体制を決めている

鹿島茂氏著「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」を読んだ。
これはすごいおもしろかった。こういう仕事ができるっていいなあ。
エマニュエル・トッドはフランス人口統計学者、歴史学者、人類学者であり、各国の人口統計や家族累計の分析をもとにソ連の崩壊、イギリスのEU離脱等を予言した、偉い偉い学者です。

トッドは親子関係(結婚後も同居するか否か)と、兄弟関係(主として長男が相続するか兄弟姉妹で平等相続か)という2象限から、家族類型を4種類に分類し、その類型とその国の政治体制(イデオロギー)がほぼ一致していることを発見した。すなわち、イデオロギーは長期に渡る家族体制の歴史の帰結にすぎない、と喝破した。

  親子関係 兄弟関係 政治体制
直系家族 権威主義的(同居) 不平等相続 自民族中心主義/社会民主主義/ファシズム 日本/ドイツ
共同体家族 権威主義的(同居) 平等相続 共産主義/一党独裁資本主義 ロシア/中国
絶対核家族 非権威主義的(別居) 不平等相続 資本主義/自由主義 アメリカ/イギリス
平等主義核家族 非権威主義的(別居) 平等相続 共和主義/無政府主義 フランス/スペイン

日本は「直系家族」なので、親と同居し、長男がほぼすべての財産を相続してきた。結果、父親(長男)を中心とした権威主義的家族体制が築かれる。従って家の存続・繁栄にとって長男への教育が重要となり、その役割は主として母親が担い、家の中での母親の権力は増加する一方、女性の社会進出は遅れる。次男・三男は長男が病死・戦死した際のスペアであり、教育はある程度受けるが、長男が家督を相続した場合は家を追い出される。追い出された後は軍人や公務員となる。戦後ではサラリーマンとなる。
男児に対する教育の熱心さの結果として、次男・三男の教育程度が高く、軍人・公務員・サラリーマンの教育程度も上がった。だからドイツや日本の軍は強かったのだ。

現在は同居比率は下がっており、相続も平等になってきている。しかし、トッドは言う。政治体制は社会体制であり、会社・学校等の組織にもその体制は根源的にインストールされてしまっている。すなわち、日本の会社の経営組織も直系家族体制になっているのだ、と。
日本は家族体制は変わりつつあり、それに伴い若者たちの意識は変わってきている。しかし、会社や学校の組織の体制はまだ変わっていない。様々な社会的軋轢はこの点で説明できるのかもしれない。年功序列制度、硬直的な給与体制、育児休業の取得しにくさ、等々。

一方で、イギリス・アメリカ型の「絶対核家族」では、子供は相続においては平等に扱われる代わりに、同居はせずに成人したら家の外に出て独立する。結果として子供への教育には比較的無頓着となるが、早期に自由競争に晒されることとなり、この性質が資本主義経済と相性が良かったと考えられる。また、他の国に比べ母親の社会参加程度も高い。

また、ロシアと中国は同居する権威主義的家族体制であることは日本と同様であるが、相続については兄弟が平等に扱われる点が異なる。日本よりも大きな「共同体家族」が形成され、父親の権威は更に強大となる。このような家族態勢の国が一党独裁の共産主義体制に行き着いたのだ、という説も納得感がある。

面白かったのは、明治維新は次男・三男が起こした、という説。
日本的直系家族体制では次男三男以降は外に出され、もちろん野垂れ死ぬ人もいるのだろうが、勉強して立身出世していく人間もいて、そういう人間が革命の源泉になったのだ、という説。そうだとすると、いまは次男三男が少ないから、体制変革って難しいよなあ…..

また、ドイツ、イギリス、フランスの家族類型が全て違うってのが面白い。そりゃ延々と戦争するよね。そしてEUの仕組み作っても、イギリスが出ていくことになるのも納得してしまう。