2023年 9月 の投稿一覧

3. 父、魔界について大いに語る

妻の目の奥に宿る情熱を感じた段階で、魔界に迷い込む運命を感じとっていた私ですが、まだまだ踏み込む勇気は出てきません。

私は、よく飲みに行きます。酒は弱いんですけど、話したくて。色んな人と。
特に30代後半からは、サシか少人数でじっくり話し合うのが好きなんですが、往々にして議論が沸騰し、終電関係なく飲み続けてしまうという、面倒なおっさんそのままを体現しています。
そんな飲み仲間には同世代が多く、先にこの魔界を経験した先人が沢山おりましたので、折に触れて中学受験の話題を出して、意地悪く議論を吹っ掛けて回りました。

私の聞きたいことはひとつ。
「小学生にあれだけ無茶な勉強させて、楽しい時間を奪うことになる中学受験ってものに、どんな意味があるのだろうか?」

まあこんな曖昧な議題を吹っ掛けられる方もたまったもんじゃないと思いますが、当時はこの答えを真剣に知りたかったのです。
様々な方に意見を伺いました、同級生、同僚はもちろん、立派な経営者や弁護士にも聞きました。子供だけではなく本人が中学受験経験者であることも多かったです。その意見を集約すると以下の通り(中学受験肯定派の意見)。

・選択肢が広がる
・学力が高い友達に囲まれて青春時代を過ごせる
・中高一貫校に行けば6年間自由に過ごせる
・後で苦労するより先に苦労しておいた方がいいじゃん
・高校受験はもっと大変らしいぞ

説得力があるような気もしますが、どうも私は納得できません。私はいつも飲み屋の中心で叫びました。

「嘘だ!」

だって、どうも嘘くさくないですか?一見正しそうに見える意見は無理矢理にでも疑ってかかるのが私の信条です。単なる職業病かもしれません。そうして相手につっかかるのですが、大概相手も酩酊している状態なので不毛な言い合いになってしまう……
いつもの私の反論の概要は以下の通り。

・選択肢が広がる
→でも小学生時代に思う存分遊び回るという「選択肢」が奪われているじゃないか。
→いい学校に入る、という選択肢の方を増やしているだけですよね。
→遊びから学びを得たり、暇な時間を使って友達との関係を構築したり、じっくり時間をかけてスポーツをする、といった選択肢は減っていますよね。
→「選択肢」という言葉はまやかしじゃない?

・学力が高い友達に囲まれて青春時代を過ごせる
→同じ様なやつばかりに囲まれて楽しいのかな?そもそも多様な友達からの学びが少なくならない?

・中高一貫に行けば6年間自由に過ごせる
→小学生時代の自由な時間が奪われていることについては?単なるトレードオフだよね?

・後で苦労するより先に苦労しておいた方がいいじゃん
→苦労は10後半くらいからの方がいい気がする。
→自分で選んだ道の途中での苦労と、よく分からないで押し付けられた苦労、どっちの方が意味がある?
→というか勉強って苦労なのか?子供に勉強が苦労だと思わせる時点でどうなんやねん…..

・高校受験はもっと大変らしいぞ
→これは正直私はわからん。私の田舎はそうではなかったが、関東ではそうなのかもしれん。

 

色々と考えましたが、今になっても、これだけの時間と資金と労力をかけて関東の中学受験戦争に子供を放り込むということにメリットがあるのか、明確な結論が出ていません。

考え続けると終わりませんので、私の友人の言葉と茂木健一郎さんのYoutubeが頭に残っているので、その2つを紹介して終わりにしようかと。

「中学受験って、所詮大学受験時の偏差値が5程度上がるくらいのものだと思うんだよね。そのためにこれだけの犠牲を払うのは正しいのだろうか」

2. 家族で二月の勝者を読む

Google先生は、明日札幌出張となれば美味しいみそラーメン店の記事を薦めてくるし、英語勉強したいなと思った刹那に英語塾の広告を見せてきますよね。いつも私の欲望に忠実で、恥ずかしいやら気まずいやらですが、とても信用しています。わたしは常時甘んじてGoogle先生の奴隷です。
今回も、第一次家族会議をくぐり抜け、中学受験というものを意識し始めた瞬間に、Google先生はぬるりと「二月の勝者」の購読を薦めてきました。それは読み終わるまで何故これを読み始めたのか気づかせないくらいに繊細なやり方で。

数年前までスピリッツを定期購読していた私は「二月の勝者」という中学受験漫画が連載していることは知っていました。しかし特に中学受験に興味のなかった私は、すっかりと読み飛ばしていました。面白そうかも、という引っ掛かりさえも微塵も感じていなかったのですよ。

それがいざ読み始めたら全然止まらないこと。

「中学受験は父親の経済力と母親の狂気」
という有名なキャッチフレーズに表される中学受験の闇の暴露から始まり、塾業界の闇、中学受験が親子関係に与える致命的な問題点、友人関係に入り込む成績ヒエラルキーなどの実態を矢継ぎ早にストーリーに乗せてきます。登場する親にも子にも時には叔母さんにもすっかり感情移入してしまいます。
また、名前は変えているものの、各学校の偏差値帯や受験生からの扱われ方が自然と頭に入ってきました。
いやあ、こりゃ面白い。

早速私は妻に単行本を渡しました。

「なにこれ?」
「いいから読んでみなよ」
「中学受験がやばいって話?私に受験を諦めさせようとする魂胆?」

中学受験反対派の私から単行本を渡され、警戒していたうちの妻ちゃんですが、読み始めたらすぐに全巻自分で購入し、数日で読破してしまいました。普段漫画なんてほとんど読まないのに。
妻は内容について多くを語りませんでしたが、更に受験への熱が滾ったのは傍目から明らかでした。

ふと気づくと息子もあっという間に読破していました。
なんだお前まで滾り始めたのか。

この漫画は、親子関係の悪化、異常な勉強量、塾産業の裏側、等マイナスな情報も多いですが、それ以上に射幸心のようなものを煽る効果があるようで、こりゃ実質的にはスポ根漫画だな、と思いました。努力、友情、親の愛、そして真剣勝負が中学受験の情報の渦の中に効果的に散りばめられていて、興奮させる作用が満載。
勉強だってスポーツのように熱くなれるんだ、というメッセージが伝わります。

島津くんやまるみちゃんは応援したい気持ちが溢れ出くるし、親にはすっかり感情移入してしまう。

特に、島津くんのお父さんには……….笑ってしまったけれど、結構いるんだろうなあこういう人……
2年後、もしかして自分もあんな風になるのだろうか……..