私には夢がある。それは、いつの日か、野球狂のホステスだけがいる飲み屋を作るという夢である。
15年ほど前、神田で飲み歩いていて、4次会くらいのところで「コスプレキャバクラ」に入ったことがある。
泥酔し、コスプレなんて興味ねえよ~と言いつつ入店したところ、満員です、と言われ、しばし待つことに。もう11時を過ぎていたが、オタク風の1人客が等間隔に10人以上座っており、みな楽しそうに女性と話している。女性はめいめいのコスプレをしているが、私にはなんのキャラクターか分からなかった。
「あ~こういう店ね、ありがちだよね~」なんて話して待っていた。
しかし席に着いてみてびっくりした。そこはコスプレキャバクラではなく、オタク専用キャバクラだったのだ。彼女たちは全員、オタク的な話であれば例えどんな話であろうときっちりと話を合わせてくれるのだ。その時流行っていた「涼宮ハルヒ」「ぼくらの」「スクールデイズ」なんてアニメに関しては当然として、初代ガンダムのカイ・シデンが恋をした女の子の名前すら知っている。マクロスの映画のエンディングも把握していたし、AKIRAの大佐の髪型についてひとしきり冗談を言い合うことだってできた。
更に言えば、彼女たちは各々専門分野を持っており、私はアニメ、あの子はエロゲー、あの子は少年マンガで、等。専門分野に対する彼女たちのこだわり、造詣の深さは尊敬に値するレベルであった。
しかし、彼女たちはそのスキルと比して薄給だった。確か時給1,000円台であったように記憶している。
私はいたく感服し、その後指名で何度か来店することになってしまうのだが、、、それはよいとして。
この話を私が運営している草野球チームの仲間に話したところ、「それ、野球の話が同じレベルでできる店があったら、僕はハマりますね」と言った奴がいた。
なるほど!そりゃそうだ。あの深さで野球の話ができる女性が集っている店があったら、野球好きのおっさんが大量に通うのでは………野球好きのおっさんはただただ野球の話がしたいだけのいい人なのだ。でも妻と娘は全く耳を傾けてくれないし、時には同僚ではなく、女性にも聞いてもらいたいはずだ。
私の夢はそこから始まった。しばらく仕事が手につかず、妄想が止まらなくなった。
まずは12球団全部のファンの嬢を揃える必要がある。
しかし、一応ユニフォームを着てちょっと最近の選手の話ができるくらいではだめだ。広島担当であれば高橋慶彦の各年度の盗塁数を空で言えるくらいのレベルであってほしい。日ハムファンであれば巨人に取られた選手を全員列挙することくらいは基礎教養としてできて欲しいし、中日ファンであれば「あれ、誰だっけ、中日から西武に移籍したバッターで、、」と言ったら「田尾でしょ。あ、もしかしてバント職人の方?」くらいが即答できるくらいであって欲しい。
ペーパーテストと面接を課さないといけない。
毎月、嬢の成績を発表する必要もあろう。
指名客の比率が高い嬢は首位打者だ。シャンパンの本数が多いと本塁打王。お店への売上貢献高が1番の嬢を打点王としようか。是非三冠王を目指してほしい。三冠王なら契約更改で時給は倍増どころではない。
先発完投型(オープンラスト)の子には沢村賞をあげたい。クローザーも重要だ。荒れた客から集金してきっちりと家に帰す嬢はセーブ王として讃えよう。ヘルプが多くなってしまう嬢だって中継ぎ王が目指せる。今流行りのオープナー戦略は、、、ちょっと店としては困るところではある。ベスト9はどうやって選ぼうか。
できたら、専門分野も持ってほしい。高校野球専門やMLB専門はニーズが高い。社会人野球を専門にするとマニアックだが太いファンがつく可能性もある。学生時代に実際にプレイしていた方や、球場で売り子の経験がある方は人気がでるであろう。そして一番人気は球団ダンサーだ。各球団のダンサーを揃えることができたら言うことはない。ショータイムはきっと満席だ。
10月はクライマックスシリーズと日本シリーズの季節だ。年間成績の良かった嬢が優勝を目指し、指名・シャンパン争いを繰り広げる。いや、違う、シャンパンではなかった。客はビールを箱買いし、ビール掛けを目指すのだ……
店の名前は「WBC」(Women’s Baseball Club)
客が神様ではない。嬢が主役だ。
と、今日もこんな店を経営することを夢想しながらお酒を飲んでいます。