家族類型が政治体制を決めている
鹿島茂氏著「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」を読んだ。
これはすごいおもしろかった。こういう仕事ができるっていいなあ。
エマニュエル・トッドはフランス人口統計学者、歴史学者、人類学者であり、各国の人口統計や家族累計の分析をもとにソ連の崩壊、イギリスのEU離脱等を予言した、偉い偉い学者です。
トッドは親子関係(結婚後も同居するか否か)と、兄弟関係(主として長男が相続するか兄弟姉妹で平等相続か)という2象限から、家族類型を4種類に分類し、その類型とその国の政治体制(イデオロギー)がほぼ一致していることを発見した。すなわち、イデオロギーは長期に渡る家族体制の歴史の帰結にすぎない、と喝破した。
親子関係 | 兄弟関係 | 政治体制 | 国 | |
直系家族 | 権威主義的(同居) | 不平等相続 | 自民族中心主義/社会民主主義/ファシズム | 日本/ドイツ |
共同体家族 | 権威主義的(同居) | 平等相続 | 共産主義/一党独裁資本主義 | ロシア/中国 |
絶対核家族 | 非権威主義的(別居) | 不平等相続 | 資本主義/自由主義 | アメリカ/イギリス |
平等主義核家族 | 非権威主義的(別居) | 平等相続 | 共和主義/無政府主義 | フランス/スペイン |
日本は「直系家族」なので、親と同居し、長男がほぼすべての財産を相続してきた。結果、父親(長男)を中心とした権威主義的家族体制が築かれる。従って家の存続・繁栄にとって長男への教育が重要となり、その役割は主として母親が担い、家の中での母親の権力は増加する一方、女性の社会進出は遅れる。次男・三男は長男が病死・戦死した際のスペアであり、教育はある程度受けるが、長男が家督を相続した場合は家を追い出される。追い出された後は軍人や公務員となる。戦後ではサラリーマンとなる。
男児に対する教育の熱心さの結果として、次男・三男の教育程度が高く、軍人・公務員・サラリーマンの教育程度も上がった。だからドイツや日本の軍は強かったのだ。
現在は同居比率は下がっており、相続も平等になってきている。しかし、トッドは言う。政治体制は社会体制であり、会社・学校等の組織にもその体制は根源的にインストールされてしまっている。すなわち、日本の会社の経営組織も直系家族体制になっているのだ、と。
日本は家族体制は変わりつつあり、それに伴い若者たちの意識は変わってきている。しかし、会社や学校の組織の体制はまだ変わっていない。様々な社会的軋轢はこの点で説明できるのかもしれない。年功序列制度、硬直的な給与体制、育児休業の取得しにくさ、等々。
一方で、イギリス・アメリカ型の「絶対核家族」では、子供は相続においては平等に扱われる代わりに、同居はせずに成人したら家の外に出て独立する。結果として子供への教育には比較的無頓着となるが、早期に自由競争に晒されることとなり、この性質が資本主義経済と相性が良かったと考えられる。また、他の国に比べ母親の社会参加程度も高い。
また、ロシアと中国は同居する権威主義的家族体制であることは日本と同様であるが、相続については兄弟が平等に扱われる点が異なる。日本よりも大きな「共同体家族」が形成され、父親の権威は更に強大となる。このような家族態勢の国が一党独裁の共産主義体制に行き着いたのだ、という説も納得感がある。
面白かったのは、明治維新は次男・三男が起こした、という説。
日本的直系家族体制では次男三男以降は外に出され、もちろん野垂れ死ぬ人もいるのだろうが、勉強して立身出世していく人間もいて、そういう人間が革命の源泉になったのだ、という説。そうだとすると、いまは次男三男が少ないから、体制変革って難しいよなあ…..
また、ドイツ、イギリス、フランスの家族類型が全て違うってのが面白い。そりゃ延々と戦争するよね。そしてEUの仕組み作っても、イギリスが出ていくことになるのも納得してしまう。
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