マネジメントインタビュー

利益剰余金100億の男

よく営業は天性だと言われる。昔のボスに「俺は生れつきの営業マンだ。売る才能が最初から備わっている。お前は生れつきじゃないが、努力すればいい営業マンになれるよ。まあ、俺以上にはなれないけどな」とよく言われた。ボスと私は同じものを売っていたが、ボスが売ると値段が倍以上になった。

そのボスと一緒に訪問していたクライアントの社長は、正真正銘の営業の化け物だった。数十年にわたりありとあらゆる商品をありとあらゆる手法で売りさばき、彼の会社は100億円超の利益剰余金を蓄えるまでになっていた。

100億円の利益剰余金のほとんどが現預金として保存されている。暇なのか、お戯れなのか、気に入った人間がいると軽い気持ちで5000万円、1億円をぽんと渡してしまう。彼のビジネスのアイデアは尽きることがないので、そういった人間に思いつくままにその金でビジネスをやらせる。時には不動産、時には飲食店、時には車のディーラー…
彼からしたら、売ることは簡単なことなので、アイデアと金を渡したら成功するに決まっていると考えている。

しかし、もちろん多くの場合、成功しない。ほとんどの人間には売る才能なんて生れつき備わっていないのだ。また、売る努力も大してしない。ましてや、会社経営の才能に至っては99%の人間が持ち合わせていない。そうして私は資金がただただ溶けていくのを毎月数字上で見つめることになる。
成功している人間の多くがそうであるように彼もせっかちなので、半年程度、早ければ3ヶ月程度で結果がでないとイライラし始める。なぜ売れないのか。あんな在庫さっさと売っぱらえよ。売れてないのになんでこんなにコストがかかるんだよ。

しばらくすると深夜にメールが届くようになる。泥酔しているのか、単に精神的に参っているのかは不明だが、そういう時のメールは詩的だ。

「先生、5000万円は回収し、今月中に会社はかいさんします。

社員はRを残して全て解雇するように伝えてほしいです。
もうこれ以上つづける気はありません。

K弁護士にも連絡ずみです。
今月中にかいさん手続き完了できますよね?」

 

「Tは横領をしているので、訴えます。
裏切りは悲しいです。
通帳をすぐに回収してもってきてください。

例の不動産案件も外れてもらって
この件も弁護士に調べてもらいます。」

 

「先生、信頼して頼んだはずなのに、

このままだとK弁護士に連絡しないといけません。

役員報酬がなぜ100万のままなのでしょう。交際費も毎月高額です。
先生はなぜ把握していないのでしょうか。
今日中にれんらくをください」

 

なぜか行間が空いているので、芸能人のブログを読んでいる気分に。しかし、内容は強烈だ。基本的に常に誰かが訴えられるような可能性に満ちている。
すぐに返信しないと追い打ちのメールが来る。夜中の2時でも構わずに。

「なぜ返信くれないのでしょう。
そもそもこの件は先生の管理不足が原因だと思います。

契約を再検討します。」

きびしい。スピード感が桁違いだ。確かに管理不足といえなくもないけど、会社の解散なんて10日でできませんよ…..交際費の使い方もいちいち指導できませんよ…..
しかし、まだ真面目な会計士だった私は極力即時対応を心がけ、問題点も会社の方々と一緒になって真摯に解決しようとしていた。しかし、真面目は損気。次第に私の精神は追い詰められていった。やはり、常に訴訟の可能性が見え隠れするのはきつい。

しかし、これが昼間に会うと太陽のようなナイスガイで、魅力的な言葉を掛けてくれる。

「いやー先生いつもありがとうございます。対応早いし、助かります。会社閉鎖の件は先生の言う通り延期します。で、3月中に計画が出てきたらあと1億出して、新規出店させようと思ってるんですよー。Dって会社知ってます?この前そこの社長と飲んだんですけど、営業協力してくれるって言ってて…………」

本当のことは何なのか、わからなくなっていく。
そして、そうこうしているうちにうまくいく会社も出てくる。あのマンション5億で売れましたよ、といった報告も届く。新規出店順調です、との月次報告も。
幻惑的経営。躁鬱経営。こんなやり方もあるのか。

1年、2年と付き合いを重ねていくと、次第に彼の進め方は分かってくる。思いつき投資、即損切り。彼は恋愛や結婚も同じスタンスだった。ただ、深夜のメールでは相変わらず厳しい言葉が使われるので、周りの人間の精神は次第に病んでくる。私も例外ではなかった。

ストレスには強い方だと自分では思っていたが、次第に酒量は増え、睡眠時間は減少していった。いよいよ自分の精神が耐えられなそうになったとき、彼は全てのビジネスから手を引く、と言い始めた。
思いつきであろうことは分かっていたが、乗るしかないこのビッグウェーブに、と「承知しました。即時対応します」と答え、粛々と法人を整理していった。

整理には半年程度かかったが、なんとか私の精神状態はギリギリで保たれ、訴訟も打たれず、会社も儲かったが、この件は私に大きな教訓を与えてくれた。

やばい経営者はまじでやばい。

 

でも、やっぱり魅力的だからまた同じような人がいたら近づいちゃうんですよね……..きっと。

 

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

私には夢がある(野球キャバクラ経営)

私には夢がある。それは、いつの日か、野球狂のホステスだけがいる飲み屋を作るという夢である。

15年ほど前、神田で飲み歩いていて、4次会くらいのところで「コスプレキャバクラ」に入ったことがある。
泥酔し、コスプレなんて興味ねえよ~と言いつつ入店したところ、満員です、と言われ、しばし待つことに。もう11時を過ぎていたが、オタク風の1人客が等間隔に10人以上座っており、みな楽しそうに女性と話している。女性はめいめいのコスプレをしているが、私にはなんのキャラクターか分からなかった。
「あ~こういう店ね、ありがちだよね~」なんて話して待っていた。

しかし席に着いてみてびっくりした。そこはコスプレキャバクラではなく、オタク専用キャバクラだったのだ。彼女たちは全員、オタク的な話であれば例えどんな話であろうときっちりと話を合わせてくれるのだ。その時流行っていた「涼宮ハルヒ」「ぼくらの」「スクールデイズ」なんてアニメに関しては当然として、初代ガンダムのカイ・シデンが恋をした女の子の名前すら知っている。マクロスの映画のエンディングも把握していたし、AKIRAの大佐の髪型についてひとしきり冗談を言い合うことだってできた。

更に言えば、彼女たちは各々専門分野を持っており、私はアニメ、あの子はエロゲー、あの子は少年マンガで、等。専門分野に対する彼女たちのこだわり、造詣の深さは尊敬に値するレベルであった。

しかし、彼女たちはそのスキルと比して薄給だった。確か時給1,000円台であったように記憶している。
私はいたく感服し、その後指名で何度か来店することになってしまうのだが、、、それはよいとして。

この話を私が運営している草野球チームの仲間に話したところ、「それ、野球の話が同じレベルでできる店があったら、僕はハマりますね」と言った奴がいた。
なるほど!そりゃそうだ。あの深さで野球の話ができる女性が集っている店があったら、野球好きのおっさんが大量に通うのでは………野球好きのおっさんはただただ野球の話がしたいだけのいい人なのだ。でも妻と娘は全く耳を傾けてくれないし、時には同僚ではなく、女性にも聞いてもらいたいはずだ。

 

私の夢はそこから始まった。しばらく仕事が手につかず、妄想が止まらなくなった。

まずは12球団全部のファンの嬢を揃える必要がある。
しかし、一応ユニフォームを着てちょっと最近の選手の話ができるくらいではだめだ。広島担当であれば高橋慶彦の各年度の盗塁数を空で言えるくらいのレベルであってほしい。日ハムファンであれば巨人に取られた選手を全員列挙することくらいは基礎教養としてできて欲しいし、中日ファンであれば「あれ、誰だっけ、中日から西武に移籍したバッターで、、」と言ったら「田尾でしょ。あ、もしかしてバント職人の方?」くらいが即答できるくらいであって欲しい。
ペーパーテストと面接を課さないといけない。

毎月、嬢の成績を発表する必要もあろう。
指名客の比率が高い嬢は首位打者だ。シャンパンの本数が多いと本塁打王。お店への売上貢献高が1番の嬢を打点王としようか。是非三冠王を目指してほしい。三冠王なら契約更改で時給は倍増どころではない。
先発完投型(オープンラスト)の子には沢村賞をあげたい。クローザーも重要だ。荒れた客から集金してきっちりと家に帰す嬢はセーブ王として讃えよう。ヘルプが多くなってしまう嬢だって中継ぎ王が目指せる。今流行りのオープナー戦略は、、、ちょっと店としては困るところではある。ベスト9はどうやって選ぼうか。

できたら、専門分野も持ってほしい。高校野球専門やMLB専門はニーズが高い。社会人野球を専門にするとマニアックだが太いファンがつく可能性もある。学生時代に実際にプレイしていた方や、球場で売り子の経験がある方は人気がでるであろう。そして一番人気は球団ダンサーだ。各球団のダンサーを揃えることができたら言うことはない。ショータイムはきっと満席だ。

10月はクライマックスシリーズと日本シリーズの季節だ。年間成績の良かった嬢が優勝を目指し、指名・シャンパン争いを繰り広げる。いや、違う、シャンパンではなかった。客はビールを箱買いし、ビール掛けを目指すのだ……

店の名前は「WBC」(Women’s Baseball Club)
客が神様ではない。嬢が主役だ。

 

と、今日もこんな店を経営することを夢想しながらお酒を飲んでいます。

経営者人格マトリクス

経営者と話す時はいつでも、その方が以下のマトリクスのどの象限に位置しているのかを把握して話すことになる。そもそも行動原理が全く異なるからだ。これを常に意識していないと、経営者に対するコンサルタントとしては何を依頼されているのかを正確に理解することができない。

創業者
上場 超人 狂人
エリート 有能な人 非上場
雇われ

基本ルール
・創業者寄りの経営者は株価を上げることを目標とする。
・雇われは役員報酬を継続的に授受することを目標とする。
・上場か非上場かは外の世界(株主やマーケット及び世間)を意識するかどうかが異なる。

 

上場+創業者
→現代における超人。通常数十億~数百億の資産を保有。
基本的に個人として人生を楽しむための資産は十分。思考回路は一般人には想像できない粋に達している。
自分が創業した会社のあくなき成長を目指すか、潤沢な資金をバックに自分の好きな趣味や人間に対して多様な投資を行う。基本的に怖いものはない。マスコミや国家権力くらい。
上場(M&A含む)によって株式のほとんどを売却してしまった場合は羨望の資産家となる。

上場+雇われ
→成功したエリート
株式を保有しているかどうかでさらに細分される。多くの株やストック・オプションを保有すればするほど上の象限に移動する。
自分の椅子を守り役員報酬を長期間受け取ることが目的となりがち。従って判断は保守的になる傾向にある。常に株主への説明責任に頭を悩ます存在。株主と有能な部下が怖い。

非上場+創業者
→愛すべき狂人。叩き上げ経営者。
狂人にならなかった二代目は基本的に下の象限に移動する。
会社の調子が良い限りは好き放題できる。業績が悪いと自分の自由が制限されたり雇用を維持できないことを強烈に理解しているため、腹をくくっている方が多い。
→この象限については個人事業主やフリーランスとの区別が難しいが、売上規模や雇用人数である程度区別できると思う。売上が億単位もしくは雇用人数が数十人になった時にこの象限に入るというイメージ。
太いお客さんと税務署が怖い。

非上場+雇われ
→有能なサラリーマン
歴史の長い優良企業に多い。全てを卒なくこなす人格者が多い印象。
会社の長期的な成長と従業員雇用の維持を目標としながら、個人の自己実現を現実的に追求している。
ただ、創業者(株主)が人選を誤って無能な者が指名された場合は(または二代目が無能だと)、従業員が多大な迷惑を被ることになる。
おそらく常に様々なことに頭を悩ましている。

 

一般的には右の象限から左の象限に移ることは可能。しかし、下の象限から上の象限に移ることは困難。
特に「有能な人」から「狂人」に移るのは非常に困難。
「狂人」は会社を成長させ上場させれば「超人」になれる。

もちろん、上記は経営者としての人格であり、行動原理であるから、経営を離れたプライベートの人格はその限りではない。限りではないのだが、プライベートの人格や行動に大きな影響を与えてしまうことが多い。

 

どの方も有能で、魅力的ですよ。ただ、友人としては「狂人」が一番おもしろいですね。最も金払いがいいのはもちろん「超人」ですが、扱いが非常に難しいです。私は業務的には「有能な人」と一番相性が合います。

年間交際費2億円の男

営業の一環で彼の会社の決算書を初めて見た際は驚愕した。従業員数十名の会社にも関わらず、長期間一貫して10億円以上の利益が出ているのだ。しかも毎年2億円以上の交際費が計上された上で。

交際費年間2億円ということは、月額2,000万円弱、飲みに行ったら毎回百万円単位で浪費しなければならない計算だ。平日のほとんどを銀座の高級クラブに通っているようで、何度か同伴させていただいたことがあるが、彼が入店すると間髪入れずにドンペリ的な何かのボトルが5~10本並ぶ。代わる代わる10人近くの女性が周りを囲み、銀座プロホステスの仕事を見せつけられ、席の全員を巻き込んできっちりと会話が盛り上がる。だがその饗宴のなか、1時間もすると彼はすっと立ち上がり、「ではまた来週!」と言って出口に向かう。「でたでたー社長、また明日!でしょうー」と囃し立てるホステスを背中にお愛想する姿はまさに粋の骨頂。そして次のクラブで全く同じことを繰り返す。その夜の4,5軒のはしごで、200万円以上は使っているのではと思われる。

なぜこんなことが可能なのか。
彼の会社は、ある南米の巨大な企業と日本の巨大メーカーを強く結びつけることに成功していた。
その時はすでに亡くなっていた共同創業者と一緒に粘り強く交渉し独占契約にこぎつけていた。
商材が非常に特殊であったため、中間業者としての彼の会社の存在感は長期にわたって色褪せなかった。

私が呼ばれた理由は、上場ミッションだった。
上場を目指す際、まずはショートレビューと呼ばれる事前調査が必要になる。粉飾がないか、社内管理体制が整備されているか、黒い交際関係はないか、ビジネスモデルに継続性はあるか、といった上場の前提となる条件が整っているかどうかを確認する調査だ。通常は監査法人や証券会社が行うことになるが、なぜか私のコンサル会社に依頼してきた。

私は教科書どおりに「収益性は十分ですが、問題は管理体制です。南米の子会社は仕入規模が大きいので管理体制が問題となるでしょう。さらなる調査は現地に行く必要があります。」と話した。
正直なところ、南米子会社の決算書は怪しいところだらけだった。

南米法人の経営は現地の日本人社長にほぼ任せられていた。所謂コストセンターで、北米・南米からの仕入を全て担っている。現地社長の語学力と人脈は確かなものであったが、管理能力には疑問符がついた。

こいつは行ってみないとしょうがないぜよ、ということで追加報酬の交渉も忘れ、ワクワク気分で南米にひとっ飛びした。

調査の結果は問題点の宝庫だった。
・人件費を現地社長の個人会社を通して払うことにより年間1億円ほど中抜き
・外注費の水増し
・粉飾会計(経費を10年間にわたり3億円ほど資産計上。これは税金の払い過ぎでもある)
・個人経費(ペットの餌等)を毎月百万単位で付け替え

1週間程で効率よく問題点を大量に発見し、私は得意満面だった。こりゃ継続契約になるし、結構お金もらえるなあ、と。
「ありゃー、これじゃ上場できないかなあ」社長は頭を抱える。
「そうですね。ただ、利益は十分ですから、1,2年かけて問題点を整理すればいけますよ」
「そうなの!じゃあ、厳しく迅速に進めよう。こんなのは横領だ、と書いちゃってよ」

通常、上場準備の報告書に「横領」といった言葉は使わない。それは上場しようとしているのに、会社が傷物であることを喧伝するようなものだ。違和感はあったが、銀座で圧倒された経験が私の判断を鈍らせていた。

報告会は荒れた。

南米法人の社長は年輩の会計士を連れてきて大きな声で怒鳴り立てた。
「横領とはなんだ!こんな報告書はでたらめだ」(本当にこんなドラマみたいなセリフを言った)
「そもそも誤字脱字が多い」(それは本当だが、どうでもいいじゃん)
「ここの合計額が1,000円ずれているのだが……」(まじでどうでもいい)
「会計士としてあるまじき報告書だ」(どういうこと?)

本質から大きく外れた指摘に一生懸命説明している私のそばで、交際費2億円男は黙ってそのやり取りを見ているだけだ。私に加勢してこない。どういうことだ?

3時間を超える白熱教室の後、彼は私にこう言った。
「ごめんなさいね、こんなに揉めちゃったから、一回、会社で整理することにしますね」
びっくりしたが、そこから全く連絡が途絶えた。連絡しても経理のおばちゃんしか対応してくれないようになった。

なぜこの時まで気づかなかったのだろう。彼は上場する気など、さらさらなかったのだ。南米法人の幹部を牽制したかっただけだったのだ。
こう書いていくと当たり前のようだが、未熟な私はこの時点まで全く気づかなかった。本当に上場をしたいのだと考えていた。よく考えたら上場を目指す理由を聞いてもろくな回答を返してくれなかったなあ。
まじめに上場を考えていた私が馬鹿みたいだ。報酬は高額ではなかったがもらえたし、南米も行けたし、仕事としては成功の部類だとは思うのだが、どうも敗北感が残る。自分の思った形ではなく利用されるとこういう気分になるのか。

かくして私はお役御免となり、二度と銀座に行けなくなった。
銀座かあ、きっと私には無理な世界なのだなあ、とそのとき思い知らされたのでした。

 

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

時価総額500億の男

自ら創業し、1代だけで時価総額1,000億超の上場会社を育て上げた経営者と何年も仕事をしていた。
彼は親族等で半数近くの株を保有していたので、彼と話す度に、私は「時価総額500億の男」と話しているのだ、と強烈に意識させられた。

このレベルの偉大な経営者に自分の言葉を伝えるのは難しい。偉大な経営者はその偉大さゆえに、私の言葉などまともに聞いていない。もちろんお金儲けにつながる専門的な意見は聞いてくれるし、聞いているフリもしてくれるが、自分の行動が必ず会社の利益につながる、という確信があるのだろう。その実績もある。基本的には人の意見なんて聞かないことが正解なのだ。実際のところ私もその態度が正しいと思う。

私が知る限り、彼が経営に関すること以外を考えているのを見たことがない。聞いたこともない。関係していないと思われることも、必ず会社のビジネスに関係している。毎日というレベルではなく、毎秒経営のことを考えている。非常に失礼ながら、辟易するレベル。
もう少し趣味とかの話もしてみたいなあ、と考えていたこともあるが、いや、そういう話をぶっこむ余地はない。

彼が買収したい会社が見つかると、電話で一方的に情報だけ伝えてくる。その電話は信じられないくらい一方的だ。
「おお、Sくん、忙しいところ悪いねえ、今回は旅行会社なんやけどね。うちの店舗ネットワークと組み合わせれば収益化は簡単で、いやね、まだ小さいから管理体制はあかんけど、そこはなんとかせんとやけど、いや、えらく有能でやる気ある社長なんや、けど1個問題があってなあ、悪い土地をつかまされてて、石垣島なんやけど、社長は3年後には利益出せるとか言っててなあ、ほら、例のタイ案件と絡ませればと思ってるんや、けど知ってると思うけどうちの承認体制はやっかいやからなあ、でも専務も入っとるからなんとかなると思うとる、ああ、そんで社長の奥さんが経理やっててなあ、、、、、」

私は全く口を挟めない。質問を挟むのも難しい。そして、話は常に散文的でとらえどころがない。なんとか頭の中で情報をまとめていく。旅行?石垣島?タイ?てゆーか専務なんていたっけ?しかしそんな質問が許されるわけがない。偉大な経営者の時間を奪ってはいけない。時間を奪う者と契約を続けるわけがない。
思い込みの激しい詩文や難解な哲学書を読み解いているような気分になる。

「じゃあ、決算書はTから送ってもらうんでね、見積もり頼んます。今回もおやすうたのんますねー」
(Tさんも、一体だれのことなのか、この時のわたしは理解していない)

宝探しの謎解きのような気持ちで、彼が散りばめた謎をひとつのストーリーにしていく。決算書を読み、管理担当役員に電話し(大概の場合、彼もほとんど理解していない)、Google先生にもすがる。だがこれはとても楽しい作業だ。

というわけで財務DDに突入するのだが(きっちり値引きされる)、多くの場合、大量の論点が見つかってしまう。
しょうがなく分厚い報告書を提出すると、すぐに電話がくる。
「あー、読んだよ(たぶん読んでない)、大きな問題はないということやと思うわ(たくさん問題はある)、あとは価格だけやね(いやですから)、どうやろ、向こうさんは7億の意向なんやなあ、なんとかならんかなあ、ええ社長さんなんや」
ここがほぼ1回きりの勝負。本当に重要な点に絞って、不退転の決意で問題点を伝える必要がある。しかも簡明に。ここで伝えられないとすさまじい勢いで話は進んでいき、止めるためにはいつか誰かが何らかの犠牲を払うことになる。

「社長、高いです。がんばって4億です。先方の事業計画は達成できると思えません」
「社長、管理体制がめちゃくちゃです。売上金額が毎月数千万円単位でずれてます。いや、そもそも預金残高が数千万円ずれてます。上場会社として受け入れるのは無理です」
「社長、脱税の可能性があります」

例えばこんなヤバい論点を出すのだが、彼はかならず粘ってくる。
「計画ではなあ、あの宮城の案件あったやろ、あそこの手数料が3%上昇するということで、月2,000は出るらしいから、もっと数字は行く言ってるのよ」
「土地はねえ、5億で買ういうてる会社があるらしいのよ」
「管理体制はうちの経理が入るから大丈夫や」
「Sさん、脱税は可能性じゃ困るで。先方の社長にも言えないがな」

一方で、管理担当役員はちゃんと報告書を読んでいるので、こりゃあかんな、と分かっている。
「Sさん、これ、厳しいなあ。」「でもうちのオヤジ、例によって突っ走っちゃってて」「なんとかダメだと説得してもらえませんか」とこう来る。

まじですか。
まあねえ、社外の人間の方が頼みやすいのはわかる。悪いことを言うために我々はお金をもらっているのだ。ここからが腕の見せどころ。

常識ではあり得ないことをしてきたから彼の会社は時価総額1000億にまで成長したのだ。常識的な反対意見など聞き飽きている。多くのそういった意見を無視して進んできて、従業員数千人を抱えるまでになったのだ。承認体制、会計基準など知るか。私の直感が経営的に正しいのだ。

決して言わないが、彼はこう思っているはずだ。私も全くもって同意する。
そして、私はこういう経営者が本当に好きだ。

なので、とにかく彼の希望が叶うよう、知恵を絞る。裏から売り手株主を説得してもらうし、事業計画の達成可能性を高める方策を考えたり、土地の買い手を探したり、税法や会計基準への準拠を進めるし、過去の不祥事を半年かけてきれいに整理したりする。
いつの間にか、いただいている報酬以上のことをしてしまう。これが彼の偉大さなのだ、とその時に気づく。彼の前へ前へと続く正義の推進力を目の前にすると、多くの人間が自然とこういう行動を取ることになる。

彼の推進力をエネルギーとして、多くのハードルは乗り越えられていく。そして、いつも驚嘆するのだが、多くの人間の尽力の結果、問題とされていた点は解決され、最終的に買収は完了に向かっていく。

そして、私が知る限り、この会社の買収は長期的にも多くが成功している。

 

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

不倫の十戒

私の経験上、オーナー社長の多くは浮気(不倫)をしています。
あくまで私の経験上です。類友って言葉もありますから、おそらく私自身がおかしいのでしょう。
そのせいでしょうか。浮気(不倫)については随分と思慮を巡らせ、様々な経営者と話をさせていただきました。
その中で、ある経営者が、以下のような独白をしておりまして、随分と私の心に残っておりますので、記録のために以下に記しておきます。

「中学生のときですね。同級生でとても好きな人がいたんです。片思いでしたけど、ほんとうに純粋な気持ちだったと思います。垢抜けていないけれども、凛としていて、慈愛に満ち、常に一生懸命で笑顔が素敵な人でした。また、一方、恋ではないけれど、とても性的魅力を感じる同級生がいました。中学生なのに、しなをつくるのがうまく、ほどよい距離感、媚というのでしょうか、、、、、、私の官能を直接刺激してくるような、、、、わたしは、わたしは好きな人がいるのに、毎日毎日その女性を思い浮かべ性的興奮を覚えていたのです。
そりゃあ悩みましたよ。自分はなんて汚れているのだと。こんなに好きな人がいるのに、汚らしい性的欲望を抑えることができないとは。
でも、そんな生活を1年ほど続け、気づいたんです。これはどっちの感情も本物なのではないかと。どちらからも逃げてはいけない。純粋な恋愛感情と性的な恋愛感情、両方とも大事にして、どちらの欲望も人生を賭けて満足させよう、と決めたのです。」

彼は、その時から、将来の妻子と自分の欲望を両立させるべく、自分に対する戒律を決めていったそうです。そうやって出来上がったのが以下の「不倫の十戒」です。

不倫の十戒
①両方の感情が矛盾なく存在することにつき、結婚相手にも極力誠実に説明を試みる(公開)
②相手の話を極限まで聞く(傾聴)
③性の機会を平等に提供する(性の平等)
④相手の不倫を責めないのは当然だし、むしろ既に不倫をしているものとして、それはそれとして愛する(平等)
⑤日常生活において、不倫が相手にバレないよう、極限まで努力する(誠意)
⑥相手のプライベートを詮索しない(嫉妬の禁止)
⑦子供がいる場合は全力で愛するし、時間を使う(慈愛)
⑧日常生活が問題なく過ごせる資金を家庭に提供し続ける(資金)
⑨共働きであれば家事育児は当然のように分担(生活)
⑩不倫相手に子供ができた場合はこれまでと同様の家庭への資金提供を両者に保証する(認知)

どうでしょうか。彼は、「この十戒を守らざれば、不倫する資格なし」と豪語しておりました。
しかしこれを守れる人間がいるのでしょうか。

ちなみに彼は早々に離婚しました。

経営者と飲むことについて

仕事柄、経営者とよく飲む。
ご一緒するのは大企業経営者ではなく、ほとんどがベンチャーや中小企業の社長・役員。
社長と飲むのは楽しい。特にオーナー社長との飲みは格別。
別に勉強になるとかではなく、もてなしが一流で、そして必ず鉄板話を持ってる。そして2軒目は大概素敵な女性がいる店に行くことになる。

でも、途中で気づいた。こいつら全員、だいたい同じ話しかしてねえじゃんyoって!

数多の経営者飲みの記憶を呼び覚まし、頭の中で分析をしていくと、話は以下の4分類につきると思われる。
①経営論
②人の噂話
③女性問題
④ゴルフ・車
以上
そして①②で90%という感覚。

まあ、①~④で充分ともいえるけどさ…..
愚痴ばっかりたれる人に比べたら100倍いいとも言えるけどさ…

でも人と話すって、そういうもんだっけ?

好きな本、映画、漫画とかの話は?宗教は?政治は?哲学は?
寂しさを感じるときの話とか、親との関係とかは?
いやむしろどうしょもない愚痴も聞きたいyo!

ほんとは、もっと社長個人に入り込みたい。でも社長飲みは洗練されていて、するりと入り込む余地が少ない。それはおそらく、彼らが防衛しているからだ。仕事の話以外で俺の中に入ってくるなよ、と。きっとそうだ。だから、社長と飲むのはなんだか寂しい。そしてきっと社長も寂しいんだ。

というわけで、私は経営者の深淵を覗き込もうと決意したのであります。