7. Gnoble入塾テスト③

今から思えばここからでした。私のコンサルタント気質が暴発してしまうのは。
やるからには効率的に結果を出るようにしてあげたい。退屈な勉強の時間を少なくし、遊びの時間も確保しつつ、そしていい成果を出してあげたい。
私のクライアントに対する方針と概ね合致しています。

この時から、我が家庭には「愛する息子」と「勉強の効率性と成果を追求するクライアント」の2者が存在することになりました。これ以後ずっと、この2者の存在への対応が分裂しないようにしないように苦慮することになります。何を言ってるんだかという感じですけど。

さて、これがコンサル業務なのだとしたら、なにわともあれ現状分析から。息子の財務諸表たる入塾テストの成績をざっと眺めると、単純な計算をいくつも間違っている。そりゃ九九もできないのだからそういうものだ。
数独や計算問題集で練習させることも考えたけれど、私はExcelで「パパ計算ドリル」というものを作成してみました。Excelの乱数関数を利用して、二桁の足し算や二桁一桁の掛け算を無限に生成してくれるドリル。まさに世にいう「Excel父さん」で、かつ典型的なコンサルタントっぽくてなんだか気味悪いわあ。

しかし作成過程を息子に見せていたら、思惑通り、息子はExcelに興味津津となり、PCを渡してみると自分でこねくりまわし始めました。まだ数式はわからないので、セルを様々な色に塗ったり、記号を記入したりして巨大な幾何学模様の作成に熱中しています。このままExcelを楽しいものと思ってもらったら私が作った計算ドリルも積極的にやってくれるかな…..
しかし、冷静に後ろ姿を見ると小学三年生の社畜。これでいいのだろうか。まあいっか。

作成された数百問のパパ計算ドリルをプリントアウトして素知らぬ顔で食卓に置いてみたら、いつの間にか手を動かし始めています。
100点だと素直に一緒に喜び、間違えたところがあると悔しそうに原因を考えています。
その姿を見ていたら、こりゃもしかして意外と勉強は嫌いではないのかな?と思えてきました。
全く勉強に興味を示さないのであれば、入塾は再検討しようと考えていたけれど、今回は山本五十六メソッドが上手にハマったようです。

1ヶ月ほどでしょうか。ほぼ毎日ドリルに向き合った結果、目に見えて計算力が上がってきました。

その結果、2回めのGnoble入塾テストで合格。

息子いわく、ほぼ同じ問題が出たようでした….あんまりパパ計算ドリルの意義はなかったのかな、と思いつつ、おそらく塾としてはほぼ同じ問題でも、ちゃんと2回3回受ける気概のある子供(及びその家族)を求めているのかね、と思ったのでした。

 

このようにして、長い長い中学受験の道への扉は完全に開け放たれてしまいました。

6. Gnoble入塾テスト②

九九が言えないよー
これで中学受験とかちゃんちゃらおかしいよ。
ということで、まずはお風呂で特訓です。ろくろくさんじゅうろくーろくしちしじゅうにー

さすがに10日間くらいの特訓でなんとか間違えないで言えるようにはなってきました。
最後の方まで、しちろくしじうゅご、とか言っていましたが….
まあでもさ、小学3年生って本当はこんなもんだよね。こんな男が3年後に受験なんてできるんだろうかね。

さて、九九が言えるのは最低限の話。もちろんそれだけでGnobleには入れません。

私は
「息子よ、本当にGnobleってところ、入りたいのか?」
と、膝を詰めて聞いてみました。息子は、膝を詰められたのはこれが初めてかもしれません。

息子は「入りたい…..」と伏し目がちに答えます。

「パパが知っている限り、勉強はかなり大変だよ。遊ぶ時間は少なくなるよ。大丈夫?」

と聞いても「入りたい」と言うだけ。理由を聞いてもはっきりとした答えは返ってきません。

ほんとなのかなあ。どうも親の意向を汲み取って言っているように思えます。
しかし親父のわたしは一応「中学受験反対派」を標榜していますし、息子も母親の意向だけを汲み取るような単純な男でもない。

きっと、周りの環境の多くが、自然と彼を塾に通う方向へと後押ししているのでしょう。

両親ともに大学受験まで(私はその後も)結構勉強をがんばった人生で、そういった経験は折に触れて話しているし、周りの友達も既に塾に通っている子が多く、通っていない子とも塾の話はしている模様。水泳教室やサッカークラブに所属していたけれど、そんなに運動が大好きなわけではないようで、3年生で辞めてしまっている。ゲームはマインクラフト以外は基本的に禁止しているのであまりやることがあるわけではない。読書が好きだし、学校の授業もそんなに嫌いではなさそう。特に理科には興味がある模様。親が見る限り、割りとオタク気質。

以上の状況を小学3年生なりに見回して、なんとなく「あー俺、こりゃ塾行く運命だわ….」と思ったのかな、と、親としては判断しました。運命には逆らえないわな。

「よし、じゃあ入塾テスト合格するためにがんばるか!」
「うん!」

この時点で完全に中学受験の扉を開けて玄関に足を踏み込んだ状況となりました。

5. Gnoble入塾テスト①

あなおそろしや。
東京の小学生は入塾するのにテストを受けないといけないんやでー。

息子はGnobleに入りたいと言っていますので(ほんとかね)、恐る恐る入塾テストを受けてみました。
GnobleはSAPIXの小規模版ですから、そんな簡単には入れないのだろうと頭では理解していました。
理解はしていましたが、そうは言ってもおれの息子、受かるんじゃねーの、と簡単に考えていました。
しかし、かるーく落ちちゃいました。
「え、まじで落ちるんだ。。。」って息子の前でポロリと言ってしまいましたよ。

テストは算数と国語のみ。
確か算数は二桁の足し算・引き算、二桁一桁の掛け算が50問くらいの問題だったかと。
国語は文章題1題で漢字・語句・文意の記号問題が出題されていたような。

結果としては、算国半分の点も取れていないで不合格。

あー、そうか、、、まあ、そういうもんだよね。難しいんだよね、きっと。
と思いつつ、問題を見てみましたが、かなり簡単な問題を間違えている。。
これ、どういうことなんだろ、と思いつつ、一緒に問題を復習してみたところ、

いや、九九言えてないやん!

しちろくしじゅうご、とか言っている!
はちろくしじゅうご、とか言っている!

小学3年生の冬だよ!
あー、いかん、九九くらいはできるもんだと思って全くフォローしていなかったわ、、、、

しかし息子ちゃん、見事にしらっとした顔をしております。入塾テストって何かしら、私そんなの受けたかしら、といったようなまっさらなお顔。あら可愛いわね。いや、ちょ待てよ。

こりゃ、中学受験どころではないわ。そんなん関係なく、九九は言えるようにしないとまずいんじゃねーの。

ということで、我が家の中学受験は、まずは九九を完璧にするという基礎の基礎から始まりました。

4. 塾詣で(早稲アカ・Gnoble)

さて、私は依然として中学受験反対派としての家庭内活動を続けていたわけですが、一方で妻は早々に息子と塾の説明会に行く約束を取り付けていました。動きが早い。妻よ、やはり受験戦争への情熱の滾りが抑え切れないんだろう?と心ではニヤニヤしつつ真面目な顔をして私も出席しました。

・早稲田アカデミー
御茶ノ水のでっかい会場で300人くらい集めての堂々たるセミナーを開催。
現状の関東の中学受験の過熱状況や勉強のコツなどを塾長が説明。
親が説明を聞いている間、息子は入塾テストのようなものを受ける。

・Gnoble
関東の中学受験の状況の説明は早稲アカと同じ。
その校舎の各教科の責任者が出てきて、勉強の概要を説明。
どんな勉強が必要になるか、その量など、わかりやすい。
息子は体験授業に行く。

・SAPIX
近所の校舎が募集終了していたので行きませんでした。興味はあったので行ってみたかったのですが。

 

結局2校しか実際には行かなかったのですが、、、

結論から言うと、夫婦揃ってほぼ迷いなくGnobleが第一候補となりました。

Gnobleの気に入ったところは以下のとおり。
・5年生まで週2日(他の大手塾の多くは5年生からは週3日)
・ほとんどお弁当持参の必要がない。
・良くも悪くも講師が冷めている。プロっぽい印象。やっぱりハチマキ巻いて叫ぶのとか嫌やんね….
・SAPIXと比べると小規模(約10分の1)なのでオルタナ感がある。

ガロ系漫画が好きだったり、NIRVANAを熱心に聞いていたりと、私はちょいサブカル・オルタナ感が好きなやつなので、SAPIXや早稲アカはなんとなく避けたいなあ、と思っていたものです。日能研や四谷大塚は言うまでもなく。
言わば「ガチ感」を出したくない、ということですね。斜に構えているのが格好いいと思っちゃっている逆にダサいやつというか。ただ、Gnobleの実態は「ガチ勢」の集会場ですので、あくまで「雰囲気」の問題です。

また、極力塾にいる時間を短くしたい、と考えていました。
結局、塾の滞在時間が短ければ、その分家でやることが多くなり、親の負担が増えるのですが….
しかし、私はそれで問題ないと思っていました。やるなら息子とがっぷり四つでやるつもりでしたので。

息子もGnobleが気に入った様子。
理由はあまり明確には言ってくれませんでしたが、おそらく以下の理由に拠るものと思われます。
①体験授業が面白かった(そもそも先生のトークが上手いし、知的好奇心をそそる授業をしてくれた模様)
②雰囲気が合った(どちらかというと息子は集団が苦手。Gnobleに漂う個人主義の匂いに気づいたか)
③親の様子を見てる(親が気に入ったのをちゃんと気づいているのでは。実はこの要素が大きいかもしれませんが….)

 

いや、てゆーか、これで挙党一致で中学受験に臨む体制が出来上がってしまったではないか。

この時点では、まだ私は未練がましく、受験をしない選択肢を心のなかに抱えたままでした。

3. 父、魔界について大いに語る

妻の目の奥に宿る情熱を感じた段階で、魔界に迷い込む運命を感じとっていた私ですが、まだまだ踏み込む勇気は出てきません。

私は、よく飲みに行きます。酒は弱いんですけど、話したくて。色んな人と。
特に30代後半からは、サシか少人数でじっくり話し合うのが好きなんですが、往々にして議論が沸騰し、終電関係なく飲み続けてしまうという、面倒なおっさんそのままを体現しています。
そんな飲み仲間には同世代が多く、先にこの魔界を経験した先人が沢山おりましたので、折に触れて中学受験の話題を出して、意地悪く議論を吹っ掛けて回りました。

私の聞きたいことはひとつ。
「小学生にあれだけ無茶な勉強させて、楽しい時間を奪うことになる中学受験ってものに、どんな意味があるのだろうか?」

まあこんな曖昧な議題を吹っ掛けられる方もたまったもんじゃないと思いますが、当時はこの答えを真剣に知りたかったのです。
様々な方に意見を伺いました、同級生、同僚はもちろん、立派な経営者や弁護士にも聞きました。子供だけではなく本人が中学受験経験者であることも多かったです。その意見を集約すると以下の通り(中学受験肯定派の意見)。

・選択肢が広がる
・学力が高い友達に囲まれて青春時代を過ごせる
・中高一貫校に行けば6年間自由に過ごせる
・後で苦労するより先に苦労しておいた方がいいじゃん
・高校受験はもっと大変らしいぞ

説得力があるような気もしますが、どうも私は納得できません。私はいつも飲み屋の中心で叫びました。

「嘘だ!」

だって、どうも嘘くさくないですか?一見正しそうに見える意見は無理矢理にでも疑ってかかるのが私の信条です。単なる職業病かもしれません。そうして相手につっかかるのですが、大概相手も酩酊している状態なので不毛な言い合いになってしまう……
いつもの私の反論の概要は以下の通り。

・選択肢が広がる
→でも小学生時代に思う存分遊び回るという「選択肢」が奪われているじゃないか。
→いい学校に入る、という選択肢の方を増やしているだけですよね。
→遊びから学びを得たり、暇な時間を使って友達との関係を構築したり、じっくり時間をかけてスポーツをする、といった選択肢は減っていますよね。
→「選択肢」という言葉はまやかしじゃない?

・学力が高い友達に囲まれて青春時代を過ごせる
→同じ様なやつばかりに囲まれて楽しいのかな?そもそも多様な友達からの学びが少なくならない?

・中高一貫に行けば6年間自由に過ごせる
→小学生時代の自由な時間が奪われていることについては?単なるトレードオフだよね?

・後で苦労するより先に苦労しておいた方がいいじゃん
→苦労は10後半くらいからの方がいい気がする。
→自分で選んだ道の途中での苦労と、よく分からないで押し付けられた苦労、どっちの方が意味がある?
→というか勉強って苦労なのか?子供に勉強が苦労だと思わせる時点でどうなんやねん…..

・高校受験はもっと大変らしいぞ
→これは正直私はわからん。私の田舎はそうではなかったが、関東ではそうなのかもしれん。

 

色々と考えましたが、今になっても、これだけの時間と資金と労力をかけて関東の中学受験戦争に子供を放り込むということにメリットがあるのか、明確な結論が出ていません。

考え続けると終わりませんので、私の友人の言葉と茂木健一郎さんのYoutubeが頭に残っているので、その2つを紹介して終わりにしようかと。

「中学受験って、所詮大学受験時の偏差値が5程度上がるくらいのものだと思うんだよね。そのためにこれだけの犠牲を払うのは正しいのだろうか」

2. 家族で二月の勝者を読む

Google先生は、明日札幌出張となれば美味しいみそラーメン店の記事を薦めてくるし、英語勉強したいなと思った刹那に英語塾の広告を見せてきますよね。いつも私の欲望に忠実で、恥ずかしいやら気まずいやらですが、とても信用しています。わたしは常時甘んじてGoogle先生の奴隷です。
今回も、第一次家族会議をくぐり抜け、中学受験というものを意識し始めた瞬間に、Google先生はぬるりと「二月の勝者」の購読を薦めてきました。それは読み終わるまで何故これを読み始めたのか気づかせないくらいに繊細なやり方で。

数年前までスピリッツを定期購読していた私は「二月の勝者」という中学受験漫画が連載していることは知っていました。しかし特に中学受験に興味のなかった私は、すっかりと読み飛ばしていました。面白そうかも、という引っ掛かりさえも微塵も感じていなかったのですよ。

それがいざ読み始めたら全然止まらないこと。

「中学受験は父親の経済力と母親の狂気」
という有名なキャッチフレーズに表される中学受験の闇の暴露から始まり、塾業界の闇、中学受験が親子関係に与える致命的な問題点、友人関係に入り込む成績ヒエラルキーなどの実態を矢継ぎ早にストーリーに乗せてきます。登場する親にも子にも時には叔母さんにもすっかり感情移入してしまいます。
また、名前は変えているものの、各学校の偏差値帯や受験生からの扱われ方が自然と頭に入ってきました。
いやあ、こりゃ面白い。

早速私は妻に単行本を渡しました。

「なにこれ?」
「いいから読んでみなよ」
「中学受験がやばいって話?私に受験を諦めさせようとする魂胆?」

中学受験反対派の私から単行本を渡され、警戒していたうちの妻ちゃんですが、読み始めたらすぐに全巻自分で購入し、数日で読破してしまいました。普段漫画なんてほとんど読まないのに。
妻は内容について多くを語りませんでしたが、更に受験への熱が滾ったのは傍目から明らかでした。

ふと気づくと息子もあっという間に読破していました。
なんだお前まで滾り始めたのか。

この漫画は、親子関係の悪化、異常な勉強量、塾産業の裏側、等マイナスな情報も多いですが、それ以上に射幸心のようなものを煽る効果があるようで、こりゃ実質的にはスポ根漫画だな、と思いました。努力、友情、親の愛、そして真剣勝負が中学受験の情報の渦の中に効果的に散りばめられていて、興奮させる作用が満載。
勉強だってスポーツのように熱くなれるんだ、というメッセージが伝わります。

島津くんやまるみちゃんは応援したい気持ちが溢れ出くるし、親にはすっかり感情移入してしまう。

特に、島津くんのお父さんには……….笑ってしまったけれど、結構いるんだろうなあこういう人……
2年後、もしかして自分もあんな風になるのだろうか……..

 

 

1. 父、中学受験という魔界を知る

息子。8歳。小学校3年生。
まだ甘えた仕草が残っている。些細なことで泣いては親を上目遣いでちらちらと見る。
しかし「必然」や「責任」なんて言葉を使うようにもなってきていた。そんなお年頃。

いっぽうで私は不穏な気配を感じていました。それは「中学受験」そのものが発する気配です。
素知らぬ顔はしていたけれど、東京の「中受」はヤバいと、耳がどこかで勝手に聞きかじっていたし、「ガチ勢」とか「サピ」なんて言葉も海馬の奥底に重要語彙として知らぬ間にストックされていました。

田舎の公立小学校から高校まで進んだ自分と妻にとっては、関東の中学受験の世界は全くの未知の世界で、そういう親にありがちな意見ですが、「小学校から受験勉強なんて…..だって私が小学生の時はその辺を走り回って泥だらけになって遊んでいましたよ。馬鹿らしい….」と思っていました。
まあ正直なところ、今もそうは思ってはいます。

しかし、まず幼稚園友達のお母さんお父さんが「ワセアカ」とか「にちのうけん」とか言い始めたのです。
なんかこれらの言葉が無視できない勢いで私達に迫ってくるのです。更によくよく世間様に耳を傾けてみると、信用している同僚もおかしな言葉を口走っていました。「つくこま」とか「αクラス」なんて単語を。

しかし、黒魔術の呪文のように唱えられるこれらの語彙に、少しでも興味を持ってしまった時点で、もう私は取り込まれていたのだと思います。中学受験の魔界に。

少しずつ好奇心に囚われてきた私は、真夜中のスマホから魔界の情報を恐る恐る引き出し始めてしまいました。

この時点で私が得た情報は以下くらいのものだったと思います。

・目下中学受験ブーム真っ盛り。受験者数は増加の一途を辿っている。
・男子は開成(筑駒)、女子は桜蔭を頂点とした熾烈な闘争が行われている。
・とにかくSAPIXが最強。強すぎ。
・勉強量がとにかくやばい。子供のくせにずっと勉強してる。
・場合によっては親子の関係がマジで悪くなる。毎日ケンカ。

 

「やめよう」
それが私の、最初の感想でした。
こんな魔界にかわいい息子を引きずり込むわけにいかないだろう、常識的に考えて。
普通に公立中学行って、高校受験か大学受験から真面目に受験を考えればいいだろう。うん、それが真っ当ってもんだろう。

 

そんな意見を固めて、ある日の夕飯の後、私は妻ちゃんと話し合いを持ちました(第1次家庭会議)。
残念ながら妻ちゃんの意見は私のものとは異なり、
「可能性が広がるし、みんな始めるみたいだし、合わなければ公立中学に行けばいいし、とりあえずやってみたほうがいいと思うんだけど…」というもの。どうしたんだよおれの妻!飛んでる女で有名だったおれの妻よ!普通の母親みたいなこと言うじゃないか!

しかし、この時点で私は気づいていたのです。穏当な意見を述べている妻の伏し目の奥に宿る、受験戦争に対する熱い闘争心を。
妻は密かに滾っていたのです。

私達夫婦は二人とも、田舎の街から、つらくて長い受験勉強を堪え忍び、死にたいくらいに憧れた花の都大東京の大学を受験し、めでたく合格を勝ち取って上京してきたのです。初めて東京に降り立った日、独りで渋谷の雑踏に身を任せた時の感動といったら!きっとあの体験が忘れられないのです。悲しいかな受験に対するロマンをまだ持ち続けているのです。もしかしたらこれは郷愁に近い感情なのかもしれません。

「あなたもそうでしょう。あの熱狂をもう一度体験したいのでしょう。ねえ、あなたもそうに決まってるわ」

妻の目はそう言っていました。もちろん慎み深いうちの妻ちゃんはそんなことは口には出しゃしませんでしたが、10年も連れ添った妻です。何も言わなくても分かりますよ。
ああ、やはり我々も親の思い入れを子供に押し付けることになるのか。

正直申し上げますと、この時点で我々夫婦は、息子に中学受験を奨める方向になるのだろうと確信いたしました。

しかし。冷静になれ、と自分に言い聞かせました。子供は別人格なのだ。

一呼吸置いて、この時点ではまだ私は中学受験に対して反対の立場を取ることにしました。
その理由は以下のようなものです。

・そもそも、本当に中学受験することにより人生の選択肢が広がるのか?
・選択肢を提示し、息子自身が選択できる形を整えた方がいいのでは。
・ていうか小学校時代の遊びの時間も大事だし、何と言っても楽しいよね。
・息子が受験をしたくない、止めたい、という結論になった際、撤退したことに本人に引け目を感じさせないようにしたい。

つまり、この時点では、ちょっとドアを開けて部屋の中を見てみようか、というくらいの気持ちだったのです。

 

しかし、後で気づくことになるんですけどね。一度ドアを開けた以上、「撤退」は非常に難しい判断であるということに。

利益剰余金100億の男

よく営業は天性だと言われる。昔のボスに「俺は生れつきの営業マンだ。売る才能が最初から備わっている。お前は生れつきじゃないが、努力すればいい営業マンになれるよ。まあ、俺以上にはなれないけどな」とよく言われた。ボスと私は同じものを売っていたが、ボスが売ると値段が倍以上になった。

そのボスと一緒に訪問していたクライアントの社長は、正真正銘の営業の化け物だった。数十年にわたりありとあらゆる商品をありとあらゆる手法で売りさばき、彼の会社は100億円超の利益剰余金を蓄えるまでになっていた。

100億円の利益剰余金のほとんどが現預金として保存されている。暇なのか、お戯れなのか、気に入った人間がいると軽い気持ちで5000万円、1億円をぽんと渡してしまう。彼のビジネスのアイデアは尽きることがないので、そういった人間に思いつくままにその金でビジネスをやらせる。時には不動産、時には飲食店、時には車のディーラー…
彼からしたら、売ることは簡単なことなので、アイデアと金を渡したら成功するに決まっていると考えている。

しかし、もちろん多くの場合、成功しない。ほとんどの人間には売る才能なんて生れつき備わっていないのだ。また、売る努力も大してしない。ましてや、会社経営の才能に至っては99%の人間が持ち合わせていない。そうして私は資金がただただ溶けていくのを毎月数字上で見つめることになる。
成功している人間の多くがそうであるように彼もせっかちなので、半年程度、早ければ3ヶ月程度で結果がでないとイライラし始める。なぜ売れないのか。あんな在庫さっさと売っぱらえよ。売れてないのになんでこんなにコストがかかるんだよ。

しばらくすると深夜にメールが届くようになる。泥酔しているのか、単に精神的に参っているのかは不明だが、そういう時のメールは詩的だ。

「先生、5000万円は回収し、今月中に会社はかいさんします。

社員はRを残して全て解雇するように伝えてほしいです。
もうこれ以上つづける気はありません。

K弁護士にも連絡ずみです。
今月中にかいさん手続き完了できますよね?」

 

「Tは横領をしているので、訴えます。
裏切りは悲しいです。
通帳をすぐに回収してもってきてください。

例の不動産案件も外れてもらって
この件も弁護士に調べてもらいます。」

 

「先生、信頼して頼んだはずなのに、

このままだとK弁護士に連絡しないといけません。

役員報酬がなぜ100万のままなのでしょう。交際費も毎月高額です。
先生はなぜ把握していないのでしょうか。
今日中にれんらくをください」

 

なぜか行間が空いているので、芸能人のブログを読んでいる気分に。しかし、内容は強烈だ。基本的に常に誰かが訴えられるような可能性に満ちている。
すぐに返信しないと追い打ちのメールが来る。夜中の2時でも構わずに。

「なぜ返信くれないのでしょう。
そもそもこの件は先生の管理不足が原因だと思います。

契約を再検討します。」

きびしい。スピード感が桁違いだ。確かに管理不足といえなくもないけど、会社の解散なんて10日でできませんよ…..交際費の使い方もいちいち指導できませんよ…..
しかし、まだ真面目な会計士だった私は極力即時対応を心がけ、問題点も会社の方々と一緒になって真摯に解決しようとしていた。しかし、真面目は損気。次第に私の精神は追い詰められていった。やはり、常に訴訟の可能性が見え隠れするのはきつい。

しかし、これが昼間に会うと太陽のようなナイスガイで、魅力的な言葉を掛けてくれる。

「いやー先生いつもありがとうございます。対応早いし、助かります。会社閉鎖の件は先生の言う通り延期します。で、3月中に計画が出てきたらあと1億出して、新規出店させようと思ってるんですよー。Dって会社知ってます?この前そこの社長と飲んだんですけど、営業協力してくれるって言ってて…………」

本当のことは何なのか、わからなくなっていく。
そして、そうこうしているうちにうまくいく会社も出てくる。あのマンション5億で売れましたよ、といった報告も届く。新規出店順調です、との月次報告も。
幻惑的経営。躁鬱経営。こんなやり方もあるのか。

1年、2年と付き合いを重ねていくと、次第に彼の進め方は分かってくる。思いつき投資、即損切り。彼は恋愛や結婚も同じスタンスだった。ただ、深夜のメールでは相変わらず厳しい言葉が使われるので、周りの人間の精神は次第に病んでくる。私も例外ではなかった。

ストレスには強い方だと自分では思っていたが、次第に酒量は増え、睡眠時間は減少していった。いよいよ自分の精神が耐えられなそうになったとき、彼は全てのビジネスから手を引く、と言い始めた。
思いつきであろうことは分かっていたが、乗るしかないこのビッグウェーブに、と「承知しました。即時対応します」と答え、粛々と法人を整理していった。

整理には半年程度かかったが、なんとか私の精神状態はギリギリで保たれ、訴訟も打たれず、会社も儲かったが、この件は私に大きな教訓を与えてくれた。

やばい経営者はまじでやばい。

 

でも、やっぱり魅力的だからまた同じような人がいたら近づいちゃうんですよね……..きっと。

 

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

私には夢がある(野球キャバクラ経営)

私には夢がある。それは、いつの日か、野球狂のホステスだけがいる飲み屋を作るという夢である。

15年ほど前、神田で飲み歩いていて、4次会くらいのところで「コスプレキャバクラ」に入ったことがある。
泥酔し、コスプレなんて興味ねえよ~と言いつつ入店したところ、満員です、と言われ、しばし待つことに。もう11時を過ぎていたが、オタク風の1人客が等間隔に10人以上座っており、みな楽しそうに女性と話している。女性はめいめいのコスプレをしているが、私にはなんのキャラクターか分からなかった。
「あ~こういう店ね、ありがちだよね~」なんて話して待っていた。

しかし席に着いてみてびっくりした。そこはコスプレキャバクラではなく、オタク専用キャバクラだったのだ。彼女たちは全員、オタク的な話であれば例えどんな話であろうときっちりと話を合わせてくれるのだ。その時流行っていた「涼宮ハルヒ」「ぼくらの」「スクールデイズ」なんてアニメに関しては当然として、初代ガンダムのカイ・シデンが恋をした女の子の名前すら知っている。マクロスの映画のエンディングも把握していたし、AKIRAの大佐の髪型についてひとしきり冗談を言い合うことだってできた。

更に言えば、彼女たちは各々専門分野を持っており、私はアニメ、あの子はエロゲー、あの子は少年マンガで、等。専門分野に対する彼女たちのこだわり、造詣の深さは尊敬に値するレベルであった。

しかし、彼女たちはそのスキルと比して薄給だった。確か時給1,000円台であったように記憶している。
私はいたく感服し、その後指名で何度か来店することになってしまうのだが、、、それはよいとして。

この話を私が運営している草野球チームの仲間に話したところ、「それ、野球の話が同じレベルでできる店があったら、僕はハマりますね」と言った奴がいた。
なるほど!そりゃそうだ。あの深さで野球の話ができる女性が集っている店があったら、野球好きのおっさんが大量に通うのでは………野球好きのおっさんはただただ野球の話がしたいだけのいい人なのだ。でも妻と娘は全く耳を傾けてくれないし、時には同僚ではなく、女性にも聞いてもらいたいはずだ。

 

私の夢はそこから始まった。しばらく仕事が手につかず、妄想が止まらなくなった。

まずは12球団全部のファンの嬢を揃える必要がある。
しかし、一応ユニフォームを着てちょっと最近の選手の話ができるくらいではだめだ。広島担当であれば高橋慶彦の各年度の盗塁数を空で言えるくらいのレベルであってほしい。日ハムファンであれば巨人に取られた選手を全員列挙することくらいは基礎教養としてできて欲しいし、中日ファンであれば「あれ、誰だっけ、中日から西武に移籍したバッターで、、」と言ったら「田尾でしょ。あ、もしかしてバント職人の方?」くらいが即答できるくらいであって欲しい。
ペーパーテストと面接を課さないといけない。

毎月、嬢の成績を発表する必要もあろう。
指名客の比率が高い嬢は首位打者だ。シャンパンの本数が多いと本塁打王。お店への売上貢献高が1番の嬢を打点王としようか。是非三冠王を目指してほしい。三冠王なら契約更改で時給は倍増どころではない。
先発完投型(オープンラスト)の子には沢村賞をあげたい。クローザーも重要だ。荒れた客から集金してきっちりと家に帰す嬢はセーブ王として讃えよう。ヘルプが多くなってしまう嬢だって中継ぎ王が目指せる。今流行りのオープナー戦略は、、、ちょっと店としては困るところではある。ベスト9はどうやって選ぼうか。

できたら、専門分野も持ってほしい。高校野球専門やMLB専門はニーズが高い。社会人野球を専門にするとマニアックだが太いファンがつく可能性もある。学生時代に実際にプレイしていた方や、球場で売り子の経験がある方は人気がでるであろう。そして一番人気は球団ダンサーだ。各球団のダンサーを揃えることができたら言うことはない。ショータイムはきっと満席だ。

10月はクライマックスシリーズと日本シリーズの季節だ。年間成績の良かった嬢が優勝を目指し、指名・シャンパン争いを繰り広げる。いや、違う、シャンパンではなかった。客はビールを箱買いし、ビール掛けを目指すのだ……

店の名前は「WBC」(Women’s Baseball Club)
客が神様ではない。嬢が主役だ。

 

と、今日もこんな店を経営することを夢想しながらお酒を飲んでいます。

エマニュエル・トッド「老人支配国家 日本の危機」

国際問題の分析

トッド本人が決めてないんだろうと思われる本書の題名。実はそんなに日本の危機については書かれていません。それよりも英米、日本、中国、EUに関する人口統計や家族累計を基にした分析が慧眼だらけです。あまりに分かりやすいので、まとめたくなる衝動を抑えられませんでした。

まずは人々のイデオロギーが家族構造によって決まるという仮説については、以下の「読書感想文」で以前、自分勝手にまとめました。

エマニュエル・トッドの家族論

今回はその議論を踏まえて、最近の世界各国の動向についてのトッドの思考が述べられています。

英米(アングロサクソン系民族)による主導が続く

アングロサクソン流の「絶対核家族」では、子供は早期に独立し、自分の世界を確立する必要がある。
シュンペーターの有名な議論に、「資本主義は創造的破壊を起こさないとダイナミックに動かすことができない」というものがあるが、「絶対核家族」の家族類型がこの創造的破壊を起こすことに適合していたのだ、というのがトッドの説。
創造的破壊とは、自分が作り出したものを自分自身で破壊し、新しいものを創ることであり、家から早期独立することが創造的破壊をにつながっているのだ、と説く。

また、絶対核家族社会では、個人の平等に無頓着なため、格差社会に耐えられる。その結果が現在のアメリカの経済格差につながっている。

意外でしたが、トッドは現在のグローバリズムに批判的で、行き過ぎたグローバリズムと考えているようです。
特にアメリカにおいては、「自由貿易こそが格差を拡大し、社会を分断している。アメリカのリベラル政党は人種差別には敏感だが、グローバリズムによって苦しんでいる低学歴の同胞には共感しない。」と指摘し、さらに
「実は、黒人マジョリティの経済的利益に合致するのは「保護貿易」である。黒人差別は黒人以外の人種の安定要素として機能してきた歴史がある。」と説く。
これは今のリベラル勢力にはなかなか言えないことですよね。日本の左派には絶対に無理ですよね。
リベラル的思想を代表していると思われるような立場のエマニュエル・トッドがそれを言える、という点に知性の熟成を感じます。

こういった要因の帰結で、米国が不安定化していると見ます。それはアメリカの白人中年男性死亡率、乳幼児死亡率、刑務所収監率の増加に如実に現れているとのこと。

しかし、とトッドは言う。それでも今後も国際社会を主導していくのはアングロサクソン系だと(トッドはフランス人なので、個人的にはこの結論を苦々しく思っているのが読んでいて伝わります)。

英語圏(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド等)の人口増加は継続しており、相変わらず経済力は強い。
ここで、アメリカの保護主義が進めば革命になる可能性があると言います。トランプ現象は行き過ぎたグローバリズムから保護主義への方向転換であり、トランプが負けてもまだその萌芽は残っている。もしその方向性が適切に進めば、トランプは歴史の転換点に現出した偉大な大統領となる可能性すらある、と言います。

そして、これから問題となるのは保護主義VSグローバリズムではなく、「極端な保護主義」か「リーズナブルで賢い保護主義か」なのだと結論付けています。

ちなみに、保護主義に進んだアメリカが、今後台湾及び日本を守るかどうかは分からない、として、日本の核武装についても肯定的な見解を述べています。

中国が世界の覇権を握ることはない

次に、人口統計的・家族類型的に「中国が米国を凌ぐ大国となり、世界の覇権を握るようなことはあり得ない」とトッドは予言しています。
その根拠は次のとおり。
中国の出生率は1.3人、また、出生児の男女比118:100(通常は106:100)であり、異常値を叩き出しており、急速な少子高齢化が進むことが確定している。更に言えばこの統計も正しいものかどうかはわからず、もっと酷い数値である可能性もある。
経済成長率はインドを下回り、中国国内には「教育水準の低さ」「急速な少子高齢化」「外需依存の歪な経済構造」という重大な不均衡が存在している。

そして最終的に
『「全体主義体制」の国が最終的に世界の覇権を握る事はあり得ない。一時的に効率よく機能したとしても、必ずある時点で立ち行かなくなる。やはり、人類の歴史は「人間の自由」を重んじる社会や国の方が最終的には優位に立つ、と私は考えます。』
と説いています。

自由という言葉が好きな自分勝手な私としては、トッドの上記の言葉を信じたいですが、どうなるんでしょう。

日本の直系家族の肯定的・否定的論点

日本やドイツのような直系家族では、家の存続のために継承者の能力が重要になってくるので、徹底して教育に力を入れる。子供を完璧に育てようとする。この「完璧」は社会のあらゆる側面に適用される。会社組織運営、製品製造、インフラの整備、教育システム等において「完璧」を目指した社会構造の構築が進められる。ただ次第に、「完璧」を目指すがゆえ、システムから外れるようなリスクを取らない傾向が進む。

戦後の高度成長と失われた30年の両方を見事に表現しているではありませんか。つくづく家族類型分類すげえーと思いませんか。

「直系家族がいったん完全に確立してしまうと、今度は社会全体が継続性だけを重視するようになり、化石化の傾向に陥りがちで、硬直化しやすい。未完成で不完全なシステムに留まっている時の方が実はうまくいく」
というトッドの言葉をもっと日本人に伝えていきたい。みんな、もうちょっとシステムや組織に対して緩くて適当でいいのではということですよ。

日本の移民政策に関しては以下のように言います。
『移民を受け入れない日本は「排外的」と言われますが、私が見るところそうではなく、仲間同士で摩擦を起こさずに暮らすのが快適で、そうした「完璧な」状況を壊したくないだけでしょう。子供を持つこと、移民を受け入れることは、ある程度の「不完全さ」や「無秩序」を受け入れることだからです。』
ほんと私もそう思う。

また、「直系家族では奔放な性は抑圧される傾向にある」そうで、現在不倫批判報道の増加は、直系家族的価値観が強化されている傾向の発露では、と言います。
そうそう、もう芸能人の不倫報道もやめようよ。

民主主義について

民主主義は識字率の上昇等のいくつかの条件が整えば自動的に起こる現象である。ただし、これには実は隠された土台があり、それは自民族中心主義である。民主主義とは本来は、自分たちの民族を特別だと考えて、それ以外の者を排除し、そうすることでグループを作り、その内部で社会的選択を検討するためのものである。

これを踏まえた上でのトッドの予測は、民主主義の失地回復は右派で起こるというもの。左派はグローバリズムなので民主主義の土台と根本的にズレている。
現在の文化左派は文化的差別を排除することに執心するあまり、実際には国際的な寡頭制(グローバリズム化した金融資本による支配)を代表することになる。
アメリカで言えば、Google等の新興グローバル企業の多くが民主党支持層である、ということが象徴的。

「ポピュリズムは、エリートが民衆の声に耳を傾けるのを拒否し、国民を保護する国家という枠組みを肯定的に引き受けない時に台頭してくるものです。逆に言えば、ポピュリズムはエリートが民衆の声を受け止めさえすれば自ずと消滅するものなのです。」

コロナについての概説

トッドの意見では、コロナのインパクトは「出生数の減少」と「自粛生活が全世代の平均寿命にもたらす悪影響」が重要である。
『高齢者の健康を守るために若者と現役世代の生活に犠牲を強いた。その傾向は日本のような「老人支配」の度合いが強い国ほど顕著です。社会が存続するうえで「高齢者の死亡率」よりも重要なのは「出生率」であることを忘れてはいけません。』
『老人を敬うのは良きモラルだとしても、「社会としての活力」すなわち「生産力」は、「老人の命を救う力」よりも「次世代の子供を産み育てる力」にこそ現れます。』

これ日本で言ったら炎上するやつだよなあ。でも私もまったく同じ意見です。

日本の女性がモテる理由

父系的な直系家族では女性の地位が下がる。父親を頂点にして兄弟が暮らす共同体家族(中国、ロシア)では更に女性の地位は下がる。実はユーラシア大陸の大部分(中国、ロシア、その他イスラム文化)で数世紀にわたって進行してきたのは女性の地位低下であり、日本もそのダイナミズムの中にあると考えられる。
女性の地位を上げ、人口増加につなげたいのであれば、江戸時代くらいのルーズさに戻ることを考えた方がいいのでは、というのがトッドの提言。

また、米国は伝統的に女性の社会的地位が高い。一方でアメリカ男性は非常にマッチョ志向が強い。つまり、社会が女性の強さを容認するがゆえに、個人としての男性は、より男らしさを強調した振る舞いに走る。
一方、日本ではグループとしては男性が強く、より大きな社会的な自由を享受している。ところが個人となると、女性と1対1で逆に女性に圧倒されてしまうことが多い。そこでトッドの40年の研究生活の果てに辿り着いた仮説では、「女性の地位が高い社会で育った男性と、父系的で男性上位社会出身の女性が出会うと、二人共それまで経験したことのないレベルで自分がリスペクトされているという感覚を味わうのですよ」とのこと。

これが日本の女性が欧米人にモテる理由なんじゃないの、と最後にコメントして終わっています。