経営者人格マトリクス

経営者と話す時はいつでも、その方が以下のマトリクスのどの象限に位置しているのかを把握して話すことになる。そもそも行動原理が全く異なるからだ。これを常に意識していないと、経営者に対するコンサルタントとしては何を依頼されているのかを正確に理解することができない。

創業者
上場 超人 狂人
エリート 有能な人 非上場
雇われ

基本ルール
・創業者寄りの経営者は株価を上げることを目標とする。
・雇われは役員報酬を継続的に授受することを目標とする。
・上場か非上場かは外の世界(株主やマーケット及び世間)を意識するかどうかが異なる。

 

上場+創業者
→現代における超人。通常数十億~数百億の資産を保有。
基本的に個人として人生を楽しむための資産は十分。思考回路は一般人には想像できない粋に達している。
自分が創業した会社のあくなき成長を目指すか、潤沢な資金をバックに自分の好きな趣味や人間に対して多様な投資を行う。基本的に怖いものはない。マスコミや国家権力くらい。
上場(M&A含む)によって株式のほとんどを売却してしまった場合は羨望の資産家となる。

上場+雇われ
→成功したエリート
株式を保有しているかどうかでさらに細分される。多くの株やストック・オプションを保有すればするほど上の象限に移動する。
自分の椅子を守り役員報酬を長期間受け取ることが目的となりがち。従って判断は保守的になる傾向にある。常に株主への説明責任に頭を悩ます存在。株主と有能な部下が怖い。

非上場+創業者
→愛すべき狂人。叩き上げ経営者。
狂人にならなかった二代目は基本的に下の象限に移動する。
会社の調子が良い限りは好き放題できる。業績が悪いと自分の自由が制限されたり雇用を維持できないことを強烈に理解しているため、腹をくくっている方が多い。
→この象限については個人事業主やフリーランスとの区別が難しいが、売上規模や雇用人数である程度区別できると思う。売上が億単位もしくは雇用人数が数十人になった時にこの象限に入るというイメージ。
太いお客さんと税務署が怖い。

非上場+雇われ
→有能なサラリーマン
歴史の長い優良企業に多い。全てを卒なくこなす人格者が多い印象。
会社の長期的な成長と従業員雇用の維持を目標としながら、個人の自己実現を現実的に追求している。
ただ、創業者(株主)が人選を誤って無能な者が指名された場合は(または二代目が無能だと)、従業員が多大な迷惑を被ることになる。
おそらく常に様々なことに頭を悩ましている。

 

一般的には右の象限から左の象限に移ることは可能。しかし、下の象限から上の象限に移ることは困難。
特に「有能な人」から「狂人」に移るのは非常に困難。
「狂人」は会社を成長させ上場させれば「超人」になれる。

もちろん、上記は経営者としての人格であり、行動原理であるから、経営を離れたプライベートの人格はその限りではない。限りではないのだが、プライベートの人格や行動に大きな影響を与えてしまうことが多い。

 

どの方も有能で、魅力的ですよ。ただ、友人としては「狂人」が一番おもしろいですね。最も金払いがいいのはもちろん「超人」ですが、扱いが非常に難しいです。私は業務的には「有能な人」と一番相性が合います。

年間交際費2億円の男

営業の一環で彼の会社の決算書を初めて見た際は驚愕した。従業員数十名の会社にも関わらず、長期間一貫して10億円以上の利益が出ているのだ。しかも毎年2億円以上の交際費が計上された上で。

交際費年間2億円ということは、月額2,000万円弱、飲みに行ったら毎回百万円単位で浪費しなければならない計算だ。平日のほとんどを銀座の高級クラブに通っているようで、何度か同伴させていただいたことがあるが、彼が入店すると間髪入れずにドンペリ的な何かのボトルが5~10本並ぶ。代わる代わる10人近くの女性が周りを囲み、銀座プロホステスの仕事を見せつけられ、席の全員を巻き込んできっちりと会話が盛り上がる。だがその饗宴のなか、1時間もすると彼はすっと立ち上がり、「ではまた来週!」と言って出口に向かう。「でたでたー社長、また明日!でしょうー」と囃し立てるホステスを背中にお愛想する姿はまさに粋の骨頂。そして次のクラブで全く同じことを繰り返す。その夜の4,5軒のはしごで、200万円以上は使っているのではと思われる。

なぜこんなことが可能なのか。
彼の会社は、ある南米の巨大な企業と日本の巨大メーカーを強く結びつけることに成功していた。
その時はすでに亡くなっていた共同創業者と一緒に粘り強く交渉し独占契約にこぎつけていた。
商材が非常に特殊であったため、中間業者としての彼の会社の存在感は長期にわたって色褪せなかった。

私が呼ばれた理由は、上場ミッションだった。
上場を目指す際、まずはショートレビューと呼ばれる事前調査が必要になる。粉飾がないか、社内管理体制が整備されているか、黒い交際関係はないか、ビジネスモデルに継続性はあるか、といった上場の前提となる条件が整っているかどうかを確認する調査だ。通常は監査法人や証券会社が行うことになるが、なぜか私のコンサル会社に依頼してきた。

私は教科書どおりに「収益性は十分ですが、問題は管理体制です。南米の子会社は仕入規模が大きいので管理体制が問題となるでしょう。さらなる調査は現地に行く必要があります。」と話した。
正直なところ、南米子会社の決算書は怪しいところだらけだった。

南米法人の経営は現地の日本人社長にほぼ任せられていた。所謂コストセンターで、北米・南米からの仕入を全て担っている。現地社長の語学力と人脈は確かなものであったが、管理能力には疑問符がついた。

こいつは行ってみないとしょうがないぜよ、ということで追加報酬の交渉も忘れ、ワクワク気分で南米にひとっ飛びした。

調査の結果は問題点の宝庫だった。
・人件費を現地社長の個人会社を通して払うことにより年間1億円ほど中抜き
・外注費の水増し
・粉飾会計(経費を10年間にわたり3億円ほど資産計上。これは税金の払い過ぎでもある)
・個人経費(ペットの餌等)を毎月百万単位で付け替え

1週間程で効率よく問題点を大量に発見し、私は得意満面だった。こりゃ継続契約になるし、結構お金もらえるなあ、と。
「ありゃー、これじゃ上場できないかなあ」社長は頭を抱える。
「そうですね。ただ、利益は十分ですから、1,2年かけて問題点を整理すればいけますよ」
「そうなの!じゃあ、厳しく迅速に進めよう。こんなのは横領だ、と書いちゃってよ」

通常、上場準備の報告書に「横領」といった言葉は使わない。それは上場しようとしているのに、会社が傷物であることを喧伝するようなものだ。違和感はあったが、銀座で圧倒された経験が私の判断を鈍らせていた。

報告会は荒れた。

南米法人の社長は年輩の会計士を連れてきて大きな声で怒鳴り立てた。
「横領とはなんだ!こんな報告書はでたらめだ」(本当にこんなドラマみたいなセリフを言った)
「そもそも誤字脱字が多い」(それは本当だが、どうでもいいじゃん)
「ここの合計額が1,000円ずれているのだが……」(まじでどうでもいい)
「会計士としてあるまじき報告書だ」(どういうこと?)

本質から大きく外れた指摘に一生懸命説明している私のそばで、交際費2億円男は黙ってそのやり取りを見ているだけだ。私に加勢してこない。どういうことだ?

3時間を超える白熱教室の後、彼は私にこう言った。
「ごめんなさいね、こんなに揉めちゃったから、一回、会社で整理することにしますね」
びっくりしたが、そこから全く連絡が途絶えた。連絡しても経理のおばちゃんしか対応してくれないようになった。

なぜこの時まで気づかなかったのだろう。彼は上場する気など、さらさらなかったのだ。南米法人の幹部を牽制したかっただけだったのだ。
こう書いていくと当たり前のようだが、未熟な私はこの時点まで全く気づかなかった。本当に上場をしたいのだと考えていた。よく考えたら上場を目指す理由を聞いてもろくな回答を返してくれなかったなあ。
まじめに上場を考えていた私が馬鹿みたいだ。報酬は高額ではなかったがもらえたし、南米も行けたし、仕事としては成功の部類だとは思うのだが、どうも敗北感が残る。自分の思った形ではなく利用されるとこういう気分になるのか。

かくして私はお役御免となり、二度と銀座に行けなくなった。
銀座かあ、きっと私には無理な世界なのだなあ、とそのとき思い知らされたのでした。

 

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

独ソ戦 絶滅戦争の惨禍(大木毅著)

ロシアがウクライナに侵攻した。
もうニュースを観るのもつらいので、こういう時に、両国の歴史について理解を深めようと考え、「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍(大木毅著)」を読みました。

感想としては、圧巻の一言。
ヒトラーとスターリンが両者ともにおかしくなっていくにつれて、指数関数的に積み上がっていく戦死者数。最終的に両国合わせて3,000万人以上。ヒトラー、スターリンの判断ミスによって死ぬ人数が桁違いで….2人がちょっと意固地になるだけですぐに100万人くらい死んでしまう、という事象の記録の連続です。震えます。

文中に多くの数字が出てきます。各国戦力や移動距離の記述も多いのですが、死者数と捕虜数のデータが圧巻なので、とりあえずそれだけ抽出して記録しておこうかと。

ソ連側犠牲者数

項目 犠牲者数(人) 詳細
総死者数 27,000,000 最大の推定で、戦闘員11,400,000、軍事行動・ジェノサイドによる民間人犠牲者10,000,000、その他疫病及び飢餓等により9,000,000
スターリンによる粛清 22,705 クーデターを恐れたスターリンが銃殺した将校の数
バルバロッサ作戦 504,937 ドイツ軍との初戦による戦死、負傷、捕虜数
キエフ戦 452,720 ウクライナ戦線の戦死者(ヒトラー・スターリンが当地域に拘泥)
レニングラード包囲戦 1,000,000 ヒトラーが包囲戦を選択、スターリンは断固として聖都を放棄せず
死者の97%が餓死(人口319万人)
ユダヤ人虐殺 900,000 ドイツ軍出動部隊によるソ連領内のユダヤ人の虐殺
ソ連軍捕虜死者数 3,000,000 全捕虜数5,700,000人中の死亡者。強制労働、飢餓、伝染病等。
ソ連軍捕虜強制労働者 8,400,000 民間人も含む

独ソ戦開戦初期はドイツ軍の攻勢が凄まじく、またスターリンが主要な将校を大量に銃殺していたためソ連軍の統率が取れておらず、大量の犠牲者が積み上がっていきます(独ソ不可侵条約をドイツが破って侵攻してきた、という点も重要)。特にレニングラードはスターリンが死守を厳命し、ドイツ軍が900日間の完全包囲を行ったため、食料が届けられず、民間人も含め、100万人の餓死者が出ます。おそろしすぎる….

独側被害者数

項目 犠牲者数(人) 詳細
総死者数 3,000,000
~5,000,000
戦闘員5,318,000、民間人3,000,000(独ソ戦以外も含む数字)
スターリングラード包囲戦 195,000
~380,000
包囲を解いたソ連軍の反攻
ドイツ人捕虜数 2,600,000
~3,500,000
およそ30%が死亡と推定
ソ連国内のドイツ系民族 1,400,000 強制移住させられ、20~25%が死亡と推定
ドイツ占領地域の難民 12,000,000
~16,000,000
ソ連の反攻に伴い、ドイツ占領地域にいたドイツ系民族は徒歩でドイツに向かうことになる
1945年8月の犠牲者 450,000 ソ連軍のドイツ領内への侵攻によりこの月だけでこの人数が犠牲になっている

1943年頃から、ソ連軍の態勢が整い、反攻が開始されます。
この時点で既にソ連側で数百万から数千万人の犠牲者が出ていますから、「報復は正義」とされ、ソ連軍のドイツへの報復も凄惨なものになっていきます。戦闘員ではない子供や女性も大量に虐殺されます。
ところで、なぜドイツは最終段階の絶望的な情勢でも抗戦を続けたのかという問いには、ドイツ人の生活水準は周辺諸国を占領することによって支えられており、よって、ドイツ国民はナチスに間接的に加担していたのだ、との見解が記述されています。

第二次大戦のヨーロッパ戦線はドイツvsイギリスやフランスが注目されがちですが(映画が多いからでしょうか)、独ソ戦の方が圧倒的に犠牲者が多く、この本を読むとこちらが主要戦線なのだと気付かされます。
本書では独ソ戦は途中より絶滅戦争(世界観戦争)に突入してしまったのだ、と指摘しています。

これだけの強烈な犠牲をもって絶滅戦争を戦ったのだから、ナチスを殲滅したのは俺たちだ!という自負はでるわなあ。ちなみにイギリスの犠牲者は450,000人(Wikipedia)。死者を数で比べるな!というのもわかるけど。けどねえ。
当然、戦争を仕掛けるのは最悪だと思います。ただ、なぜイギリスフランスはEUとかNATOとか言ってドイツと連帯して、東側に拡大してきやがる?という気持ちにはなるわなあ、と自分としては多少腑に落ちてしまうものがありました。

粉飾事例研究(日本M&Aセンター42億円の売上前倒し)

案件概要

日本M&Aセンターで粉飾です。M&A業界の端くれの石の下で蠢いている自分としては無視できないということで、67ページの調査報告書を、80%の下衆の勘ぐりと20%の専門家としての純粋な興味を下敷きに通読しました。

後で調査報告書をまとめたりしていますが、非常にざっくりと説明しますと以下の通り。
部署ごと営業担当者ごとの営業目標(ラップ制度・コミットメント制度)を達成するために、部長及び従業員が時に競い合い、時に馴れ合いながら、仲介している案件の株式譲渡契約書の押印を偽証したり、案件の進捗についての口裏を合わせたりし、3年半で約42億円(83件)の売上を前倒し計上した。ただしほとんどは売上の計上時期のズレ。経営陣は認識しておらず指示した証拠もなし(役員報酬は減額)。株価はおおよそ50%ダウン。上場は維持。監査法人は言われるまで気づかず。ところで根本的な問題はM&A仲介の利益相反(双方代理)では?

もちろんのこと、株式市場の番犬としては、粉飾は赦されざる行為であると考えております。ただ今回については、報告書を熟読すると、まあ、こういうことは起こるわなあ、、、という感想を持ってしまったところです。

原因については、調査報告書の中でも経営目標の設定方法や社内風土の問題が指摘されております。他には、M&Aの特性から営業担当者が案件のスケジュールをハンドルすることが困難であるという点と、M&A仲介業者の双方代理という問題点が浮かび上がります。

営業担当者は、常に年間の営業成績を算段しています。見込み案件、確定案件等の金額予測を集計して、当期の営業成績がどこまで伸びるか、その結果インセンティブ報酬がいくらもらえて、それが出世にどう影響するか、はたまた部長や同期達にどう評価されるかを、脳髄が擦り切れるくらい考えているはず。
部長は部長で部下達にいつも確認します。この案件、大丈夫なのか。当期に見込んじゃっていいか。こう言われれば多くの営業は、「はい、大丈夫です!」と言ってしまいますよね。営業の矜持として。かくして、数字は歩き出し、達成するはずのものとなっていく。

しかし、M&Aは、往々にして自分の帰責ではない理由で全く見込み通りに進みません。売り手が当初と違う条件を追加してきて、1ヶ月以上進捗が凍りついたりします。契約最終段階でつまらない会計士がどうでもいい会計上のミスを見つけたせいでズルズルとスケジュールが伸びたりします。目端の利く奴が血塗られた過去の横領を見つけちゃったりします。
仲介手数料は最終の株式譲渡契約書が締結され、案件がクローズされない限り入金されません。
こんな場合の、営業担当者のいらつき、焦燥は想像に難くありません。「なんだよあいつらむかつくな~、早く確定してくれよ。部長にも言っちゃってるんだよ。どうせ契約するんだから早くしてくれよ。ねえねえ、売り手の担当者さんもそう思うよねえ。」

そうなんですよね。M&Aセンターではほぼ全ての案件で、売り手と買い手の営業担当者が同じ会社にいるのです。M&Aセンターのみならず、多くのM&A仲介会社は、売り手・買い手、双方の代理を行い、双方から仲介手数料を収受しています。現状では売り手・買い手両方の情報が大手の仲介会社に集中しているため、そういうモデルが可能なのです。そうすると、彼らは、M&Aを成約させるために、売り手・買い手のどちらかを騙して進めることができてしまいます(実際にそういうことをやっているのだとは言っていません。念の為に)。例えば、買い手にとって不利な譲渡価額だとしても、敢えてその旨を伝えないとか……
代理される側の売り手・買い手にとってはたまったものじゃありません。
私はこの仕組みについて憤懣やるかたない思いを抱えていますので、チャンスがあれば買い手の代理人についてアドバイスをしたりしています。

この双方代理問題はかねてより問題視されていて、様々提言はされたりしているのですが、今回は、この構造が粉飾会計をする背景の一つにもなったのでは、と勝手に想像しています。社内にいる売り手買い手の営業担当者が、自分達の成績のために口裏合わせて契約書偽証、という流れになるのは容易に想像できませんか。相手の状況が把握できれば、偽証をするハードルは低く感じてしまいませんかね。
そもそも営業担当者の役割が、いいM&Aを達成することではなく、成約までいかに早く進めるか、ということにすり変わっているのでは?と思わざるを得ませんし、実際にそういう担当者にもよくよくお会いしております。

 

また、会計上の売上計上タイミングの判断は樽木管理本部長に依存していたようです。売上計上タイミングを報告する営業担当者は会計責任から比較的遠くに置かれていました。すなわち、会計上の問題は他人事と考えることができる状況だったようです。まあ、多くの会社でそうだと思いますが。
ほとんどの人間は、正義や、金銭的なリスクよりも、「誰に怒られるか」「誰に褒められるか」という基準で行動を決めていると思います。売上計上タイミングをいじっても大して怒られなそうだな、と判断したら、そりゃあ営業成績を上げて部長に褒められる方を選びますよね。
実際は「売上取消」になったら問題になっていたのだと思います。ただ、今回の調査で明らかになっていますが、売上計上タイミングを粉飾しても、その後取消になった案件はそれほど多くはありません。実は、営業担当者の判断はそれなりに正確だったのですね。そういうこともあり、皆さん過信したのかもしれません。

こういった複合的心理要因から起こった粉飾なのだろうなあ、としんみりと考えております。

粉飾評価

裁定 点数 コメント
粉飾極悪度 30点 売上の期ズレがほとんどのため、そこまで極悪ではないのでは
しかし、M&A仲介で数十億売上いじれるって、どんだけ儲かってんだよ…
経営者個人責任 20点 個人としての指示はほぼ無し
組織統制の問題 70点 適切な組織風土及び統制組織を作れなかったという意味で経営者の責任あり
従業員責任 60点 従業員の責任はあるが、多少の同情を禁じえない

※あくまで開示された情報をもとに筆者が独断偏見で付した得点であり、実態と異なる場合は平に土下座させていただく所存でございます。

経営者個人の私利私欲や保身のために自ら指示し、内部統制を無効化した粉飾ではなく、部長職や営業担当者の暴走という傾向が強いです。そもそもの内部統制が弱かった、という評価ですね。
あとは、まあ、役員含め、皆さんちょっと調子に乗ってたんじゃないですか。
(最後の言葉は大手仲介会社に大きなM&A案件を独占されている私の僻み)

 

ここより下は自分自身と会計士のための備忘記録です。

調査の詳細

発覚スケジュール

2021年10月8日 渡部取締役に再編部部長から売上前倒し計上の持ち掛けがあり、契約書の偽造の可能性に気づく
2021年10月18日 三宅社長・樽木管理本部長に報告
2021年11月末 樽木管理本部長が個別面談し17件の不正を把握
2021年12月6日 常務会で公表
2021年12月8日 トーマツに報告
2021年12月20日 適時開示
2021年12月20日 弁護士に調査を依頼
2021年12月20日~2022年1月11日 予備調査
2022年1月12日~2月24日 本調査
2022年1月21日 トーマツに追加の内部通報
2022年2月14日    訂正報告

上記を読むだけで、担当者と監査法人の胃が次第にキリキリと痛んでいく感じが伝わり、第三者としてはワクワクします。でもさすがに対応としては結構早いですね。

粉飾手法

具体的手法
① 最終株式譲渡契約書の印影の切り貼り→単純だが発見が難しい
②「ディールブレイカーの解消」について管理部に虚偽報告

個人的には「ディールブレイカーの解消」という言葉が「シュレーディンガーの猫」みたいでお気に入りです。
「M&Aディールがブレイクする要因がなくなった状態」、ということらしく、その状態にあることを確認できて初めて売上を計上していいという基準を採用していたようです。
しかし粉飾を企図している側はディールブレイカーが無いことを報告するだけなので、報告を受けた側は反証が困難です。実際は樽木管理部長の長年の経験によって最終的な判断が行われていたようですが、長年の経験があっても、報告から除外されてしまえばわからないですよね。そもそもそのように情報が非対称である状態で真面目に会計を論じていた、という状況自体が「シュレーディンガーの猫」的で好きです。

また、ディールがブレイクしてしまったら入金はされないので、長期入金されない売掛金を見ていけばこういう粉飾の萌芽は見つけられたはずです。監査法人がまず気づくべきだったとすればその点かと思いますが、どうだったんでしょう。その点は報告書に詳細はありませんでした。また、残念ながら契約書印影の偽証はなかなか気づけないですね。。。

基本的には複数犯で、一方が断ったケースもある。全くの架空案件はない。
取締役の関与はない

報告書が考える粉飾の背景

関係者は80名に及ぶ→すなわち根源的な組織環境に起因すると考えられる。
報告書は売上目標の達成にこだわる組織体制が問題であったと断じている。
当期はEXCEED30というテーマでさらなる成長を計画していた。
売上達成目標としては部門目標の「ラップ制度」→各四半期ごとに34%,67%,100%,120%の目標達成を理想とする、という考え方。もうひとつは個人ごとの「コミットメント制度」→各担当者の四半期ごとに達成できると考える売上額(コミットメント)を部署に報告する制度。
この制度が絡み合い、個人のコミットメントが、遅れ等により達成できないと部全体に迷惑がかかるという関係を醸成していた。この構造から、営業担当者はコミットメントを守らねば、という心理状況に追い込まれていたと思われる。
インセンティブは売上達成目標達成率100%でないと支給されない制度になっていた。ただし、報告書ではこの影響は限定的ではと結論付けている。

上記背景について従業員に対してアンケートを行っているのだが、その結果はなかなか興味深かった。

その他報告書の指摘する心理的要因
①ディールは架空ではない。進行しているし単なる期ずれであると軽く考える
②単なる社内報告だし、会計は別に管理部の判断で行われるものだ
③みんなやっている。共犯意識。
④コロナに負けない、というメッセージも出しており、この影響もあるのでは

それにしても、なんでみんなそんなに頑張るのかなあ、と思う人もいるかもしれない。こういう過大な成長路線が無理を産んで不正の原因となるのだ!という考え方もある。でもこの意味不明とも言える売上増加への大いなる意思が日本経済効率化に一翼を担っているのも確なので、私はあまり簡単に批判はできないですねえ。

問題の業務フロー

請求書の送付自体は担当者に委ねられていた→これは重要かもしれない。請求書の送付業務を管理部が行っていれば、そもそもこの粉飾は起きていないのではと思われる。
長期の売掛金は営業担当者が「確認書」を顧客から取得する。しかし、担当者が偽装可能だった。
売上計上の判断は樽木管理本部長で経験に基づく案件ごとの個別の判断
→ディールブレイカーの解消は担当者に聞く以外ない 長期に及ぶ等の事情が無い限り認めざるを得ない
→売り手・買い手から管理部が直接確認するフローが必要だった(これも管理部長が抱き込まれれば終わりだが)
相互抑止機能が発揮されなかった。

報告書の調査方法

各四半期の売掛金を調査対象とする(1,075取引)
押印・署名が同じかを目視で確認→すべての契約書(秘密保持、提携仲介契約書、基本合意書、最終契約書)
不正案件担当者へのヒアリング→153通の回答
リスクが高い取引のサンプリング(メール閲覧、IR情報との整合性を確認)
営業担当役員への質問(不正の自主申告を促し、関与がない誓約と取る)
案件紹介料(売上原価)と売上の対応を確認(総勘定元帳から)
営業部長6名へのヒアリング(経緯、動機、プレッシャー、)回答書14通
関与案件担当者73名へのヒアリング
経営陣7名ヒアリング
経営資料の調査(経営計画、IR、組織図、経営会議資料、売上管理資料等々)
デジタル・フォレンジックの実施(EY)
Microsoft365メール(キーワード検索)、Teams、スマホSMS、Shurikenメール→25件の検索・調査
報告窓口の設定

 

時価総額500億の男

自ら創業し、1代だけで時価総額1,000億超の上場会社を育て上げた経営者と何年も仕事をしていた。
彼は親族等で半数近くの株を保有していたので、彼と話す度に、私は「時価総額500億の男」と話しているのだ、と強烈に意識させられた。

このレベルの偉大な経営者に自分の言葉を伝えるのは難しい。偉大な経営者はその偉大さゆえに、私の言葉などまともに聞いていない。もちろんお金儲けにつながる専門的な意見は聞いてくれるし、聞いているフリもしてくれるが、自分の行動が必ず会社の利益につながる、という確信があるのだろう。その実績もある。基本的には人の意見なんて聞かないことが正解なのだ。実際のところ私もその態度が正しいと思う。

私が知る限り、彼が経営に関すること以外を考えているのを見たことがない。聞いたこともない。関係していないと思われることも、必ず会社のビジネスに関係している。毎日というレベルではなく、毎秒経営のことを考えている。非常に失礼ながら、辟易するレベル。
もう少し趣味とかの話もしてみたいなあ、と考えていたこともあるが、いや、そういう話をぶっこむ余地はない。

彼が買収したい会社が見つかると、電話で一方的に情報だけ伝えてくる。その電話は信じられないくらい一方的だ。
「おお、Sくん、忙しいところ悪いねえ、今回は旅行会社なんやけどね。うちの店舗ネットワークと組み合わせれば収益化は簡単で、いやね、まだ小さいから管理体制はあかんけど、そこはなんとかせんとやけど、いや、えらく有能でやる気ある社長なんや、けど1個問題があってなあ、悪い土地をつかまされてて、石垣島なんやけど、社長は3年後には利益出せるとか言っててなあ、ほら、例のタイ案件と絡ませればと思ってるんや、けど知ってると思うけどうちの承認体制はやっかいやからなあ、でも専務も入っとるからなんとかなると思うとる、ああ、そんで社長の奥さんが経理やっててなあ、、、、、」

私は全く口を挟めない。質問を挟むのも難しい。そして、話は常に散文的でとらえどころがない。なんとか頭の中で情報をまとめていく。旅行?石垣島?タイ?てゆーか専務なんていたっけ?しかしそんな質問が許されるわけがない。偉大な経営者の時間を奪ってはいけない。時間を奪う者と契約を続けるわけがない。
思い込みの激しい詩文や難解な哲学書を読み解いているような気分になる。

「じゃあ、決算書はTから送ってもらうんでね、見積もり頼んます。今回もおやすうたのんますねー」
(Tさんも、一体だれのことなのか、この時のわたしは理解していない)

宝探しの謎解きのような気持ちで、彼が散りばめた謎をひとつのストーリーにしていく。決算書を読み、管理担当役員に電話し(大概の場合、彼もほとんど理解していない)、Google先生にもすがる。だがこれはとても楽しい作業だ。

というわけで財務DDに突入するのだが(きっちり値引きされる)、多くの場合、大量の論点が見つかってしまう。
しょうがなく分厚い報告書を提出すると、すぐに電話がくる。
「あー、読んだよ(たぶん読んでない)、大きな問題はないということやと思うわ(たくさん問題はある)、あとは価格だけやね(いやですから)、どうやろ、向こうさんは7億の意向なんやなあ、なんとかならんかなあ、ええ社長さんなんや」
ここがほぼ1回きりの勝負。本当に重要な点に絞って、不退転の決意で問題点を伝える必要がある。しかも簡明に。ここで伝えられないとすさまじい勢いで話は進んでいき、止めるためにはいつか誰かが何らかの犠牲を払うことになる。

「社長、高いです。がんばって4億です。先方の事業計画は達成できると思えません」
「社長、管理体制がめちゃくちゃです。売上金額が毎月数千万円単位でずれてます。いや、そもそも預金残高が数千万円ずれてます。上場会社として受け入れるのは無理です」
「社長、脱税の可能性があります」

例えばこんなヤバい論点を出すのだが、彼はかならず粘ってくる。
「計画ではなあ、あの宮城の案件あったやろ、あそこの手数料が3%上昇するということで、月2,000は出るらしいから、もっと数字は行く言ってるのよ」
「土地はねえ、5億で買ういうてる会社があるらしいのよ」
「管理体制はうちの経理が入るから大丈夫や」
「Sさん、脱税は可能性じゃ困るで。先方の社長にも言えないがな」

一方で、管理担当役員はちゃんと報告書を読んでいるので、こりゃあかんな、と分かっている。
「Sさん、これ、厳しいなあ。」「でもうちのオヤジ、例によって突っ走っちゃってて」「なんとかダメだと説得してもらえませんか」とこう来る。

まじですか。
まあねえ、社外の人間の方が頼みやすいのはわかる。悪いことを言うために我々はお金をもらっているのだ。ここからが腕の見せどころ。

常識ではあり得ないことをしてきたから彼の会社は時価総額1000億にまで成長したのだ。常識的な反対意見など聞き飽きている。多くのそういった意見を無視して進んできて、従業員数千人を抱えるまでになったのだ。承認体制、会計基準など知るか。私の直感が経営的に正しいのだ。

決して言わないが、彼はこう思っているはずだ。私も全くもって同意する。
そして、私はこういう経営者が本当に好きだ。

なので、とにかく彼の希望が叶うよう、知恵を絞る。裏から売り手株主を説得してもらうし、事業計画の達成可能性を高める方策を考えたり、土地の買い手を探したり、税法や会計基準への準拠を進めるし、過去の不祥事を半年かけてきれいに整理したりする。
いつの間にか、いただいている報酬以上のことをしてしまう。これが彼の偉大さなのだ、とその時に気づく。彼の前へ前へと続く正義の推進力を目の前にすると、多くの人間が自然とこういう行動を取ることになる。

彼の推進力をエネルギーとして、多くのハードルは乗り越えられていく。そして、いつも驚嘆するのだが、多くの人間の尽力の結果、問題とされていた点は解決され、最終的に買収は完了に向かっていく。

そして、私が知る限り、この会社の買収は長期的にも多くが成功している。

 

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

不倫の十戒

私の経験上、オーナー社長の多くは浮気(不倫)をしています。
あくまで私の経験上です。類友って言葉もありますから、おそらく私自身がおかしいのでしょう。
そのせいでしょうか。浮気(不倫)については随分と思慮を巡らせ、様々な経営者と話をさせていただきました。
その中で、ある経営者が、以下のような独白をしておりまして、随分と私の心に残っておりますので、記録のために以下に記しておきます。

「中学生のときですね。同級生でとても好きな人がいたんです。片思いでしたけど、ほんとうに純粋な気持ちだったと思います。垢抜けていないけれども、凛としていて、慈愛に満ち、常に一生懸命で笑顔が素敵な人でした。また、一方、恋ではないけれど、とても性的魅力を感じる同級生がいました。中学生なのに、しなをつくるのがうまく、ほどよい距離感、媚というのでしょうか、、、、、、私の官能を直接刺激してくるような、、、、わたしは、わたしは好きな人がいるのに、毎日毎日その女性を思い浮かべ性的興奮を覚えていたのです。
そりゃあ悩みましたよ。自分はなんて汚れているのだと。こんなに好きな人がいるのに、汚らしい性的欲望を抑えることができないとは。
でも、そんな生活を1年ほど続け、気づいたんです。これはどっちの感情も本物なのではないかと。どちらからも逃げてはいけない。純粋な恋愛感情と性的な恋愛感情、両方とも大事にして、どちらの欲望も人生を賭けて満足させよう、と決めたのです。」

彼は、その時から、将来の妻子と自分の欲望を両立させるべく、自分に対する戒律を決めていったそうです。そうやって出来上がったのが以下の「不倫の十戒」です。

不倫の十戒
①両方の感情が矛盾なく存在することにつき、結婚相手にも極力誠実に説明を試みる(公開)
②相手の話を極限まで聞く(傾聴)
③性の機会を平等に提供する(性の平等)
④相手の不倫を責めないのは当然だし、むしろ既に不倫をしているものとして、それはそれとして愛する(平等)
⑤日常生活において、不倫が相手にバレないよう、極限まで努力する(誠意)
⑥相手のプライベートを詮索しない(嫉妬の禁止)
⑦子供がいる場合は全力で愛するし、時間を使う(慈愛)
⑧日常生活が問題なく過ごせる資金を家庭に提供し続ける(資金)
⑨共働きであれば家事育児は当然のように分担(生活)
⑩不倫相手に子供ができた場合はこれまでと同様の家庭への資金提供を両者に保証する(認知)

どうでしょうか。彼は、「この十戒を守らざれば、不倫する資格なし」と豪語しておりました。
しかしこれを守れる人間がいるのでしょうか。

ちなみに彼は早々に離婚しました。

経営者と飲むことについて

仕事柄、経営者とよく飲む。
ご一緒するのは大企業経営者ではなく、ほとんどがベンチャーや中小企業の社長・役員。
社長と飲むのは楽しい。特にオーナー社長との飲みは格別。
別に勉強になるとかではなく、もてなしが一流で、そして必ず鉄板話を持ってる。そして2軒目は大概素敵な女性がいる店に行くことになる。

でも、途中で気づいた。こいつら全員、だいたい同じ話しかしてねえじゃんyoって!

数多の経営者飲みの記憶を呼び覚まし、頭の中で分析をしていくと、話は以下の4分類につきると思われる。
①経営論
②人の噂話
③女性問題
④ゴルフ・車
以上
そして①②で90%という感覚。

まあ、①~④で充分ともいえるけどさ…..
愚痴ばっかりたれる人に比べたら100倍いいとも言えるけどさ…

でも人と話すって、そういうもんだっけ?

好きな本、映画、漫画とかの話は?宗教は?政治は?哲学は?
寂しさを感じるときの話とか、親との関係とかは?
いやむしろどうしょもない愚痴も聞きたいyo!

ほんとは、もっと社長個人に入り込みたい。でも社長飲みは洗練されていて、するりと入り込む余地が少ない。それはおそらく、彼らが防衛しているからだ。仕事の話以外で俺の中に入ってくるなよ、と。きっとそうだ。だから、社長と飲むのはなんだか寂しい。そしてきっと社長も寂しいんだ。

というわけで、私は経営者の深淵を覗き込もうと決意したのであります。

 

金融所得課税強化(配当二重課税)について

岸田さんが、やっぱり金融所得課税を強化したいとおっしゃっています。
いわゆる「1億円の壁」という、所得が1億円を超えると実質税率が下がっていくという現象への批判への対応です。所得が大きい人の年収の多くは配当や利子等の金融所得によって構成されているのですが、金融所得への税率が大体20%のため、実質税率が下がってしまう、という現象です。税率20%というのは大体年収1,200万円くらいの人の税率ですね(所得税・住民税含む実質の累進課税額から逆算)。

いや、そりゃおかしいやろ、大層金持ちのくせに….不公平やないか。という気持ちはよくわかります。
ただまあ、この問題は非常に複雑で、パッと考えただけで、株式市場への影響、海外税制との整合性、他の所得への課税との整合性、配当の二重課税問題等、大量の論点が思い浮かびます。

そういうわけで私は金融所得税の強化には反対したいと思っているのですが、とりあえず配当の二重課税問題について書いてみようかと。
この「二重課税」の仕組み、意外と頭がいい人もなかなか適切に理解するのは難しいようで。いや、私だって実際に自分自身が二重課税されそうな現実に直面するまであまり真面目に考えなかったですから。

とりあえず、売上=利益=1億円の会社があったときに配当課税を50%(通常の累進課税と同じ)にまで強化した場合を表にしてみました。

利益1億円会社の課税

科目   現状(配当課税20%) 配当課税50% コメント
売上   100,000,000 100,000,000 売上=利益=1億
税引前利益(課税所得) 100,000,000 100,000,000 費用なし
法人税   35,000,000 35,000,000 法人税35%
税引後利益 65,000,000 65,000,000 全額配当します
         
税金 法人税 35,000,000 35,000,000  
  配当への課税 13,000,000 32,500,000 上記配当額に課税 
  税金合計 48,000,000 67,500,000 上記の合計
税率   48.0% 67.5% 税金/利益

※累進課税の最高税率は50%を超えますが、単純化して50%としています。同様に法人税も単純に35%とします。

げえええ!配当に普通に50%課税すると税率67.5%になってしまう!
法人で課税された後に更に個人所得税で配当額に課税されるからです。
配当ってのは、すでに法人で課税されているものなんです。
現状の制度はこれをなるべく避けるようにして、配当課税を20%にしているので、結果は累進課税の最高税率50%とほぼ同じで48%です。
いや1億円も儲かってるんだからこんくらい課税してもええのや、という意見もあろうかと思います。しかし、全額役員報酬で払った場合や、法人にせず個人事業の場合は50%しか課税されないので、整合していません。そしてやはり67.5%は高すぎるのでは?

つまり、株式配当に関しては、シンプルに累進課税にするわけにいかないと思うわけです。
では、株式は累進課税から除きましょう、という意見もあろうかと思いますが、では、投資信託は?REITはどう考える?デリバティブだって株式オプションもあるぞ。そして、貸付利子と株式配当の本質的な違いとは?
といった複雑な話に入っていってしまいます。

更にいうと、事業を行って配当をもらうことと、単純に金融資産から利得をもらうことを分けることができるのか?という話に行き着いていきます。

エマニュエル・トッドの家族論

家族類型が政治体制を決めている

鹿島茂氏著「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」を読んだ。
これはすごいおもしろかった。こういう仕事ができるっていいなあ。
エマニュエル・トッドはフランス人口統計学者、歴史学者、人類学者であり、各国の人口統計や家族累計の分析をもとにソ連の崩壊、イギリスのEU離脱等を予言した、偉い偉い学者です。

トッドは親子関係(結婚後も同居するか否か)と、兄弟関係(主として長男が相続するか兄弟姉妹で平等相続か)という2象限から、家族類型を4種類に分類し、その類型とその国の政治体制(イデオロギー)がほぼ一致していることを発見した。すなわち、イデオロギーは長期に渡る家族体制の歴史の帰結にすぎない、と喝破した。

  親子関係 兄弟関係 政治体制
直系家族 権威主義的(同居) 不平等相続 自民族中心主義/社会民主主義/ファシズム 日本/ドイツ
共同体家族 権威主義的(同居) 平等相続 共産主義/一党独裁資本主義 ロシア/中国
絶対核家族 非権威主義的(別居) 不平等相続 資本主義/自由主義 アメリカ/イギリス
平等主義核家族 非権威主義的(別居) 平等相続 共和主義/無政府主義 フランス/スペイン

日本は「直系家族」なので、親と同居し、長男がほぼすべての財産を相続してきた。結果、父親(長男)を中心とした権威主義的家族体制が築かれる。従って家の存続・繁栄にとって長男への教育が重要となり、その役割は主として母親が担い、家の中での母親の権力は増加する一方、女性の社会進出は遅れる。次男・三男は長男が病死・戦死した際のスペアであり、教育はある程度受けるが、長男が家督を相続した場合は家を追い出される。追い出された後は軍人や公務員となる。戦後ではサラリーマンとなる。
男児に対する教育の熱心さの結果として、次男・三男の教育程度が高く、軍人・公務員・サラリーマンの教育程度も上がった。だからドイツや日本の軍は強かったのだ。

現在は同居比率は下がっており、相続も平等になってきている。しかし、トッドは言う。政治体制は社会体制であり、会社・学校等の組織にもその体制は根源的にインストールされてしまっている。すなわち、日本の会社の経営組織も直系家族体制になっているのだ、と。
日本は家族体制は変わりつつあり、それに伴い若者たちの意識は変わってきている。しかし、会社や学校の組織の体制はまだ変わっていない。様々な社会的軋轢はこの点で説明できるのかもしれない。年功序列制度、硬直的な給与体制、育児休業の取得しにくさ、等々。

一方で、イギリス・アメリカ型の「絶対核家族」では、子供は相続においては平等に扱われる代わりに、同居はせずに成人したら家の外に出て独立する。結果として子供への教育には比較的無頓着となるが、早期に自由競争に晒されることとなり、この性質が資本主義経済と相性が良かったと考えられる。また、他の国に比べ母親の社会参加程度も高い。

また、ロシアと中国は同居する権威主義的家族体制であることは日本と同様であるが、相続については兄弟が平等に扱われる点が異なる。日本よりも大きな「共同体家族」が形成され、父親の権威は更に強大となる。このような家族態勢の国が一党独裁の共産主義体制に行き着いたのだ、という説も納得感がある。

面白かったのは、明治維新は次男・三男が起こした、という説。
日本的直系家族体制では次男三男以降は外に出され、もちろん野垂れ死ぬ人もいるのだろうが、勉強して立身出世していく人間もいて、そういう人間が革命の源泉になったのだ、という説。そうだとすると、いまは次男三男が少ないから、体制変革って難しいよなあ…..

また、ドイツ、イギリス、フランスの家族類型が全て違うってのが面白い。そりゃ延々と戦争するよね。そしてEUの仕組み作っても、イギリスが出ていくことになるのも納得してしまう。